「悪い人になって」考える
――群青と赤城の脇を固めるキャラクターたちも非常に個性的です。彼らの人物造形にはどんな思いを込められましたか。
ヒーロー物のように特技を持った仲間がひとりひとり集まってきて「ありあけ石鹸」を作る流れにしたかった。赤城と近江はバディーで、群青と勅使河原は師弟といった関係性も意識しました。あとは群青たちバラックの家族。見知らぬ同士が擬似家族になるにあたって、真ん中にいたのが実は佳世子で、彼女はありあけの母であり、ありあけの客層となる主婦でもある。何役も担ってもらいました。
抜群に楽しかったのはやはりリョウ。戦災孤児の一団のリーダーなんですが、相剋編のリョウは我ながらかっこよく書けたと思ってます。ハードボイルド風な場面も書けて満足です。
やや苦労したのは創業メンバーで商品開発の東海林。寡黙な研究オタクなんですが、振り返ると私自身を仮託できる人でした。あと相剋編の黒田専務。敵役なんですが、さじ加減を間違えると、すぐにどこかで見たことのある感じになってしまうので、奥行きを出すため、試行錯誤しました。
書いて好きになったのは闇市のアゴ。「不忍池の人食いワニ」のヤバさが相剋編で生きてくるところは書いててスカッとしました。
嫌いなキャラはいないですね。小悪党も含めて、みんないい。
――前編である「暁暗編」は、集英社の読書情報誌『青春と読書』で連載されていましたが、
「相剋編」で描かれた物語の着地点はいつ頃から決まっていたのですか。
相剋編は「群青と赤城の対決」でしたが、大まかな方向性は決めていたものの、具体的にどこを落としどころにするかは、締切三週間前まで悩みました。担当さんに近所まで来てもらって熱くふたり会議しましたね。焼き鳥食べながら。
ただ終章手前の展開は担当さんにも告げてなかったので驚いてもらえました。力技になりそうな部分も設定自体が解決してくれたので物語の底力を感じました。
――執筆中、もっともご苦労されたのはどんな点ですか。
「昭和三十年代の製造業」を描くこと。これに尽きます。
消費財メーカーの友が力になってくれて、それがなければ書けなかったと思います。友は洗剤工場の現場にも長く携わっていた人で、一緒に知恵をしぼってくれました。すごく真面目な友人なんですが、どういう不正をどうやらかすか、みたいなのを「悪い人になって」考えてもらったりして、ちょっと罪悪感がありました(笑)。