菓子パンを食べて1時間以上正座

Aジムは母親には話さず、斉藤にだけ伝えた。

「僕も母親には言えなかったですね。気の弱い母親だったので相談しても解決どころか、余計に心配をかけるだけだろうと思って」

そのほか、内訳のわからない遠征費や、月2000円のストーブ代、必要なのかわからないTシャツの購入費用なども自己負担となった。借金が膨らんでいく。

ある日、中学校で授業を受けていると『電話がかかってきたぞ』と先生から職員室に呼ばれた。電話は会長からで、「ジムのオープン時間に間に合わないから、代わりにお前が支度して開けておいてくれ」と言われた。慌てて走って帰り、掃除等のオープンの準備を済ませたところで菓子パンを食べながら待っていたら、ちょうど帰ってきた会長に激怒された。

「『何をしとんじゃ!』って。昼食も取らずに作業していたのでお腹が空いていただけだったのですが、それが気に入らなかったようで。1時間以上正座をさせられ、反省の態度を示せと言われたので、その場で坊主になりました」

寮生のなかには納得できないと感じたのか、夜逃げする選手も多かったという。

《中学生で100万円の借金》ゴミ捨て場で漁った服を着ていた極貧の幼少期からボクシング入門、21戦目までファイトマネーはゼロ。ジムとの訴訟…復帰戦で大注目を浴びる悲運のPTA会長ボクサー・斉藤司_3
若かったころに比べて練習量は落ちても集中力は格段に上がったという

「でも自分は母親に心配かけたくないので、帰ることはできないと思っていました。寮に入ってから中学卒業まで一度も母親や家族とは会いませんでした」