「孫に食べさせられる」ばあちゃんは喜んだ
福島第一原発から40~50キロの東和地区では、空間放射線量は1~1.5ミクロンシーベルトで、通常(0.05ミクロンシーベルト前後)の20倍超だった。
畑の土からは1キログラムあたり4000ベクレルの放射性セシウムが検出された。土壌のセシウムが野菜に移行する割合はチェルノブイリの経験から、約0.1と考えられていた。
4000ベクレルの土に植えたジャガイモからは400ベクレルが検出されてもおかしくない。食品衛生法のセシウムの暫定規制値は野菜類・穀類・肉などで1キログラムあたり500ベクレルだった(2012年4月からの基準値は100ベクレル)。
若い家族は福島の野菜や米は怖くて口にしない。炊飯器を2台そろえ、ひとつは高齢者向けに地元の米を炊き、もうひとつは子ども向けに福島県外の米を炊く家もあった。それがじいちゃん、ばあちゃんにはつらかった。
標高300メートルの布沢集落で有機農業と農家民宿を営む菅野正寿さん(1958年生まれ)は、セシウムは土の表面に集中しているからと、耕して土を返し、堆肥を投入し、2011年4月にジャガイモを植えた。
阿武隈山地ではどの農家も、冷害に強いジャガイモを昔から栽培してきた。
7月、収穫したジャガイモを計測するとセシウムは10~20ベクレルだった。
「よかったぁ。これなら孫に食べさせられる」
喜ぶばあちゃんたちの顔が菅野さんは忘れられないという。