誰が攻めになるかわからない、
それでも面白かった
これほど日本のセオリーと異なる部分があってなお、国内でも受け入れられると考えられた要因はどんなところにあったのだろうか。
「最初に読んだときは、最終的にどのキャラクターが攻めになるのかもわかりませんでした。それでも面白かったんです。韓国のウェブトゥーンが持つストーリーの壮大さや、絵の美麗さ、設定の面白さはすでに日本国内でも注目されていましたし、BLに関しても他社さんですが『夜画帳』や『キリング・ストーキング』といった作品が受け入れられている前例がありました。
『エネアド』はまさにストーリーも壮大でイラストも美麗で、たとえ日本で受けやすいBLのセオリーから外れていたとしても、話数を重ねるごとにきっと魅力に気づいてくださる方が増えるはずだという自信がありました。日本の読者さんの“面白い”に対する嗅覚は飛び抜けていますから」(江崎さん)
とはいえ、日本の読者に届けるためのローカライズはもちろん必要になる。その工夫は、作品の顔となる表紙から始まっている。
「初期の韓国版のメインビジュアルではセトの顔がほとんど見えないんですが、日本版では仮面の下から若干顔が見えている絵になっています。目元が描かれていた方が、読者さんの想像力をかきたてることができるんじゃないかと考え、MOJITO先生に新たに描き下ろしていただきました」(江崎さん)
そしてもちろん、言葉の壁も存在する。翻訳者探しは難航した。ウェブトゥーンは基本的に100話以上になる作品が多く、『エネアド』もすでに本国では125話を超えている。それだけの量をまとめて引き受けてもらうことに加えて、本作ならではの条件も存在した。
「BLに理解があってエジプト神話にも造詣がある、もしくは調べる労力を惜しまない方にお願いする必要があったので、大変でした。結果的に、最初に翻訳を担当してくださった方が、登場人物たちの口調をそれぞれの性格が現れるように翻訳してくださったんですね。
海外の作品を扱う際は翻訳がその作品の価値を決めるといっても過言ではないと思うので、キャラクターがより立体的になり、ありがたかったです」(江崎さん)
そうした苦労を乗り越えた日本版リリース後には意外な驚きもあった。韓国でも若干戸惑いを持って受け止める人が多く、山田さんも最初に目を引かれた「顔が緑色」のオシリスが人気を博しているのだという。
「Twitterで感想を調べていると、ほかの言語圏に比べて日本ではオシリス人気が高いんです。我々も若干驚いています(笑)」(山田さん)
推測される理由としては、オシリスが日本のBL読者が好む「“受け”に執着する“攻め”」という鉄板の設定にハマっているからではないか、とのこと。まさしく所変われば品変わるといったところか。
日本における韓国ウェブトゥーンのさらなる可能性を提示した『エネアド』。本作のヒットを皮切りに、今後ますます韓国産BLマンガに注目が集まりそうだ。
取材・文=竹田磨央 編集=斎藤岬 © Mojito/SEOUL MEDIA COMICS,Inc./libre
『エネアド』
作:MOJITO
配信元:リブレ
https://www.b-boy.jp/special/ennead/