グラマラスで豪快、BLなのに
女性キャラが魅力的に描かれる

なお、性描写については日韓ではそもそも作られ方の違いもある。実は『エネアド』韓国版には、日本版では読めない“もうひとつの物語”があるのだという。

「韓国ではR19指定版とR15指定版の2パターンで配信しています。例えば、32話のセトがホルスに陵辱されるシーンはR19指定版では直接的な性描写として描かれていますが、R15指定版ではモノローグと背景シーンで構成したセトの心理描写に描き変えています」(クォンさん)

前提として、韓国の配信サイトは日本よりも年齢制限が厳密で、会員登録の際に住民登録番号が必要となる。未成年は成人コンテンツにアクセスできないようになっており、性描写を含むBL作品は閲覧できない。

「作品によっては、レイティングに引っかかる性描写を丸ごと削除してR15指定版として配信することがあります。一方、『エネアド』では該当するラブシーンをただ削除するのではなく、コマごと描き変えてR15指定版として配信しているんです。結果として、両方読んでいただくことで、より作品の理解度が深まるものになりました」(クォンさん)

こうした作り方は縦読みのウェブトゥーンならではだろう。右から左に読む日本のマンガでは構造上なかなか難しい。

ただ、チョウさんが言うように韓国国内ではR15指定版とR19指定版の両方を購入する熱心な読者もいるそうで、「商業商品として成り立つなら、日本の作品でも2パターンつくるのはアリかもしれません」(江崎さん)と、日本のBL出版社にとっても“発見”になったようだ。

ウェブトゥーンの制作手法に影響を受けた日本作品が生まれる日も遠くなさそうだ。

日本のBL好きが『エネアド』に驚くポイントはほかにもある。それは女性キャラクターの描き方だ。男性キャラクターの肉体が非常に筋肉質で魅力的に描かれているだけでなく、女神たちもそれに負けず劣らず、実に肉感的でグラマラスなのだ。

特にオシリスの妻でありセトの姉でもある魔法の神イシスは華のあるビジュアルに豪快な性格を持ち合わせており、彼女の存在が物語により厚みを持たせている。日本のBLマンガでも、よしながふみや井上佐藤など、女性キャラクターの緻密さに定評がある作家は存在する。

しかし、そもそも「男性キャラクターの物語」としてBLマンガを手にする読者が多いためか、BLを読んでいて魅力的な女性キャラに出会う頻度はまだ少ない。

「韓国では、BLの中でも女性を悪く描いたり、悪役を全部女性に任せたりするのは好まれません。特に最近はそうした描写があると、読者からサイト上のレビューなどではっきりと指摘されることもあります」(チョウさん)

このあたりは、ここ数年で数々のフェミニズム小説がヒットした韓国ならではの時代感覚が反映されているように感じられる。

“受け”に執着する“攻め”のオシリスは、顔が緑色!? BLマンガ大手リブレも驚いた、韓国発の「エジプト神話BL」が日本で大人気のワケ_3
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セトと魔法の神イシス(右)