「スカート男」と揶揄され
「一回死んで女になりたい」と話した園児
保育現場で問題になるのは「0歳から6歳までの園児に何を伝えるのか」だ。保育士にジェンダーやLGBTQに関する話をすると「保育園児はあまり男女を意識していない、まだ早い」「困っている子が出てきたら支援をしたらいい」といった反応がみられることが一般的だ。
乳幼児期は様々なものごとを理解していく時期であり、まずは男女の違いを認識・理解していくタイミングだ。ジェンダーやLGBTQに関する話は、いわば「応用問題」のようなもので、多くの子どもにとって「難しいのではないか」と保育の現場ではいわれている。
だが実際には、保育園児の中にもLGBTQ当事者の子どもは存在する。
2021年に大津市の保育園で、生まれ持った性別の違和感に悩む園児がいじめを受け、適応障害になったケースがある。本人が好きな服を着て登園すると「スカート男」とからかわれ、身体的暴力も受けたが、保護者からの再三の相談にもかかわらず園側から十分な対応をされず、園児は「一回死んで女になりたい」と話すほど追いつめられたのだ。
岡山大学の中塚幹也教授が2010年までにおこなった性同一性障害の当事者への調査では、自分の性別に違和感を持ち始めた時期については、「小学校就学前」との回答が56.6%であった。
たとえ性別違和があったとしても、親を含め、周りの人には絶対に言えないと考える子どもは少なくない。親が「自分の子どもには性別違和や同性愛の傾向はないはずだ」と考えていれば、子どもはそれを敏感に感じ取ってしまうからだ。
Aさん自身も、幼稚園児のとき「なんで自分はスカートを穿かされるんだろう?」「なんで赤やピンクを選ばせられるんだろう?」と違和感があった。意味がわからず、不安だったそうだ。「こうでないとおかしい」と決めつけず、子どもたちそれぞれの「好き」という気持ちが尊重されていて欲しいとAさんは言う。
ピンクやオレンジが好きな男の子、ブルーが好きな女の子もいる。「これがあなたの好きなことなんだね、素敵だね」と伝えたい。保育現場には、子どもの「好き」を否定しない大人が必要だ。
大津市の園児がいじめられているような場面に遭遇したとき、保育士はどうすればいいのか。他の園児を笑ったり、否定したり、からかうような子がいたら、エスカレートする前に声をかけることが必要だとAさんは指摘する。しかし笑った子の気持ちも否定したくはない。
「自分が何かをしたときに笑われたり、からかわれたりしたらどう思うかな?」としっかり向き合って一緒に考える。その場で時間が取れなかったとしても、「あとでお話をしようね」と伝えることが大切だ。タイミングを逃して別の機会に言うような対応をすると、子どもを混乱させることになる。「この間は言わなかったのに、なんで今言うんだろう?」と。