岡村靖幸のおかげで「理解され始めた」
――枕草子を現代風に翻案した作品などで有名な作家ですね。
『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』(河出書房新社)という本が、僕が中高生の頃に発売されて話題になっていて。
山口百恵やデヴィッド・ボウイを手編みで写真のように精巧に編み込んでいるんです。当時は手芸に興味もありませんでしたし、その本を読んだわけではなかったんですが、それでも衝撃的で記憶に残っていた。
自分がそれだけ驚いたので、これをやったら他の人も驚くだろうと思ったんですね。
編み物を始めてからきちんと本も読みました。最初はもう少しグラフィックデザイン的な図案を考えましたが、仕上がりが面白くなくて。結局、人物を編む橋本治流に戻りました。
手編みの温かさや味のようなものはあえて排除して、図案の通り精密に編んだほうがインパクトがありますね。
――結果的に計画通り、仕事にされているわけですね。
でもオーダーメイドが中心になったのは想定外なんですよ。
ニットを仕事にしようと思ったときは、企業をクライアントに、グッズ化やCMなどの小道具を担当するというのをイメージしていました。
――そんな中で現在のスタイルにたどり着いた経緯を教えてください。
手編みでの作品を作り始めたのが10年前です。
転機になったのは2019年に岡村靖幸さんのツアーグッズを制作したことですね。岡村さんご本人がSNSで見てくださったそうで、スタイリストさん経由で問い合わせをいただいて。工場に発注して100着くらい制作したのが初の量産でした。
編み物を始めた当初、周囲は「何をやってるんだ?」という反応でしたが、岡村さんのおかげで理解され始めた気がします(笑)。
ギャラリーからの引き合いがあり展示などもするようになる中、同じく2019年に初めて受注会を開きました。やってみたら意外なほどたくさんオーダーしに来ていただいて。
さらに同時期に、(玩具の企画・販売を手掛ける)メディコム・トイとのコラボレーションで量産品を販売したりもして軌道に乗った形ですね。
フルタイムでニットの仕事をするようになりました。