岡村靖幸のおかげで「理解され始めた」

――枕草子を現代風に翻案した作品などで有名な作家ですね。

『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』(河出書房新社)という本が、僕が中高生の頃に発売されて話題になっていて。

山口百恵やデヴィッド・ボウイを手編みで写真のように精巧に編み込んでいるんです。当時は手芸に興味もありませんでしたし、その本を読んだわけではなかったんですが、それでも衝撃的で記憶に残っていた。

自分がそれだけ驚いたので、これをやったら他の人も驚くだろうと思ったんですね。

編み物を始めてからきちんと本も読みました。最初はもう少しグラフィックデザイン的な図案を考えましたが、仕上がりが面白くなくて。結局、人物を編む橋本治流に戻りました。

手編みの温かさや味のようなものはあえて排除して、図案の通り精密に編んだほうがインパクトがありますね。

アインシュタインもナマ肉も三億円事件もペットも完璧に編み込む! “好きなものを着たい”に応えるオーダーニットに注文殺到【ニットの日】_6
三億円事件をモチーフにしたニットトート
アインシュタインもナマ肉も三億円事件もペットも完璧に編み込む! “好きなものを着たい”に応えるオーダーニットに注文殺到【ニットの日】_7
影響を受けた書籍『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』
アインシュタインもナマ肉も三億円事件もペットも完璧に編み込む! “好きなものを着たい”に応えるオーダーニットに注文殺到【ニットの日】_8
家庭用編み機で製作している

――結果的に計画通り、仕事にされているわけですね。

でもオーダーメイドが中心になったのは想定外なんですよ。

ニットを仕事にしようと思ったときは、企業をクライアントに、グッズ化やCMなどの小道具を担当するというのをイメージしていました。

――そんな中で現在のスタイルにたどり着いた経緯を教えてください。

手編みでの作品を作り始めたのが10年前です。

転機になったのは2019年に岡村靖幸さんのツアーグッズを制作したことですね。岡村さんご本人がSNSで見てくださったそうで、スタイリストさん経由で問い合わせをいただいて。工場に発注して100着くらい制作したのが初の量産でした。

編み物を始めた当初、周囲は「何をやってるんだ?」という反応でしたが、岡村さんのおかげで理解され始めた気がします(笑)。

アインシュタインもナマ肉も三億円事件もペットも完璧に編み込む! “好きなものを着たい”に応えるオーダーニットに注文殺到【ニットの日】_9
ツアーグッズとして製作されたニットセーター

ギャラリーからの引き合いがあり展示などもするようになる中、同じく2019年に初めて受注会を開きました。やってみたら意外なほどたくさんオーダーしに来ていただいて。

さらに同時期に、(玩具の企画・販売を手掛ける)メディコム・トイとのコラボレーションで量産品を販売したりもして軌道に乗った形ですね。

フルタイムでニットの仕事をするようになりました。