「今年はかなり気温の高い日が続いたし、カメムシにとっては過ごしやすい年になってしまったんじゃないですかね」
8月1日に「病害虫発生予察注意報」が発令された千葉県で米作りに励む60代の男性は困り顔だ。気温が高いせいでコメの生育も早かったため、例年より早めに収穫できたものの、カメムシに食われてしまったことで「くず米」もいくらかできてしまった。
「くず米でも肥料にするなり使いみちはあって、農協がある程度は買い取ってくれるんだけど、もちろん値は落ちるからね。農薬もシャレにならないほど値上がりしてるから、害虫の大量発生は農家にとってダブルパンチですよ」
〈カメムシ注意報発令中!〉大量発生でコメ農家は大打撃「クサいし農薬も高騰でシャレにならない」「身体をペシャンコにして1〜2ミリの隙間から家に入ってくる」
うだるような暑さが収まる気配を見せないなか、カメムシだけが元気すぎる。特にイネ類を餌とする「斑点米(はんてんまい)カメムシ類」が大量発生し、コメ農家は頭を悩ませているという。農林水産省は全国の14県に「注意報」を出して対策を呼びかけているが、専門家は「根本的な対策ない」と話す。(本記事内にはカメムシの写真が多数掲載されています。苦手なかたはご遠慮ください)
千葉県では例年の2倍、この10年で最も多い生息数を観測

斑点米カメムシ類の被害にあったコメ(提供/こうち農業ネット)
「斑点米」は文字通り、カメムシの口針で汁を吸われたことで生じた傷口から細菌類が侵入して米が変色する害のことを指す。この被害をもたらす斑点米カメムシ類には、体長5ミリ程度と小型のアカスジカスミカメから、体長15〜17ミリと大型のクモヘリカメムシなど数種類に及ぶ。高温多湿の環境を好むことで知られ、千葉県では例年の2倍、この10年で最も多い生息数を観測したという。
今年の注意報は北陸や東北、関東、中部、中四国、九州の計14県に幅広く発令された。このうち7月14日に注意報が出た高知県の農業技術センター生産環境課発生予察担当(病害虫防除所)は斑点米カメムシ類が増えている原因を「推論」としたうえで、こう分析した。
「昔はまずは害虫をやっつけないとまともな収穫が得られないということで、強力な薬剤を使っていました。しかし現在は、衛生的観点や環境的配慮から殺虫剤や農薬の使用を昔に比べてかなり抑えていますので、その影響も考えられます。
あとは近年、気温が上昇してカメムシが越冬できる地域が増えてきていることですかね。実際、気温が上がったことで北海道でもお米を作れるようになったし、カメムシの生育サイクルも早くなっているのではないでしょうか。高温多湿の環境がカメムシには都合がよく、繁殖と成長が進み、大量発生に繋がっていると思われます」

稲につく斑点米カメムシ類 (提供/こうち農業ネット)
同センターでは、落水後(田んぼの水を抜く作業)すぐのイネが柔らかいうちに田んぼに入って、端から端まで往来してカメムシを採集するなど、調査を続けてきた。しかし、大量発生のメカニズム解明にはいたっておらず、絶対的な対策があるわけではない。
越冬できる場所を求めて何キロも飛ぶ
それでは、被害の現場では、実際にどんな「カメムシ対策」をしているのだろう。前出の千葉県の60代のコメ農家男性に聞いてみた。
「カメムシの対策はいろいろやってますよ。稲の穂が出る前から雑草をしっかり刈り取ったり、田んぼのまわりに除草剤を撒いたりですね。それでも注意報が出てるから安心できないんで、朝夕の見回りは欠かせません。見回りするとカメムシがいつの間にか服についてくるので臭くて嫌ですけど、被害を抑えるためには仕方ないですから。経費を節減したいから、なるべく殺虫剤も撒きたくないんだけど、そうも言ってられませんしね」
プロの農家と違って、都市生活者にはカメムシはあまり馴染みがないかもしれないが、大量発生すれば住宅まで飛来して、網戸の隙間から入り込んでくることもある。間違って踏んづけでもしたら、あのとんでもない臭いに襲われる。
コメどころで有名な新潟県の害虫駆除業者「ムシムシバスターズ」代表の五十嵐辰朗さんにカメムシ対策を聞いてみた。

果樹につくクサギカメムシ(提供/こうち農業ネット)
「コメ農家にとっては斑点米カメムシ類の被害が懸念されてますが、一般家庭で注意が必要なのは、果樹カメムシ類に分類される『クサギカメムシ』や『スコットカメムシ』です。これらは家屋にも浸入してきますし、夏場に生育が進み発生する点では斑点米カメムシ類と一緒なので注意が必要です」
それはいったいどうやって気をつければいいのだろうか?
「根本的な対策はありません。果樹カメムシ類はスギやヒノキの実を餌にしますが、スギやヒノキが近くになければ大丈夫なのかっていうとそうでもなくて、越冬できる場所を求めて何キロも飛んでくる。しかも、カメムシは身体をペシャンコにして1〜2ミリの隙間があればくぐり抜けられるので、窓や網目の大きい換気扇から入ってきてしまうんです。地域ごとの標高や気温によって飛来してくる時期も変わってくるんですけど、こちらも8月頃から増えはじめており、これからいっそう注意が必要です。

千葉の民家の窓についたカメムシ
絶対にカメムシを家に入れたくないのなら、この時期に窓を一切開けないことですね。家でもできる簡単な対策としては、入ってきそうなところに殺虫剤を撒いておくとか。洗濯物に紛れて入ってしまう可能性もありますけど、これにはハーブ系の虫除けが有効です。洗濯物を外に干してる限り完全な予防はできなくても、そういった対策でかなり効果はあると思います」
カメムシ注意報が発令されている地域では、一般家庭だけでなくリゾートホテルや温泉旅館からの駆除依頼も相次いでいるという。

トラップに集まったバケツいっぱいのカメムシ(提供/高知県病害虫防除所)
「駆除というより侵入防止って感じで、発生する前から依頼されることが多いです。わいてからじゃ遅いですからね」
カメムシとの熱い戦いはまだまだ続きそうだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班