なぜ空は青いのか? 思わず子どもに語りたくなる飛行機の外に広がる空の美しさのメカニズム
なぜ空は青く、美しいのか。どのような条件が揃えば美しい空を見ることができるのか。映画『天気の子』を監修した雲研究者・荒木健太郎が空のメカニズムを、わかりやすく解説する。最新著書『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から、飛行機に乗った時に出会える美しい空について解説した章を一部抜粋・再構成してお届けする。
読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし #1
飛行機の旅を楽しむ
上空から空を眺める飛行機の旅では、地上では出会えない空の表情を楽しむことができます。そのとき一番重要なのが、「飛行機のどの座席を予約するか」です。翼が視界にかからない窓側の座席が第一条件です。次に、フライトの時間と経路、太陽との位置関係をチェックします。
たとえば朝の時間帯に羽田空港から新千歳空港に向けて出発するフライトの場合、進行方向は北なので太陽は右側(東側)にあります。このとき、左右どちらの列に席を取るべきかは、皆さんが出会いたい「現象」によって変わります。
太陽と反対側の席に座ったときに見られる代表的な現象が「ブロッケン現象」です。フライト中、機体の下に積雲や層積雲などの雲があると、乗っている飛行機の影が雲に映るのと同時に、その影を中心とした虹色の光の環=光輪ができます。
これは、水滴でできた雲の粒を太陽光が回り込む(回折する)ことによって、影を中心に環状の虹色の光が現れるものです。もともとはドイツのブロッケン山でよく見られたことから「ブロッケン現象」と呼ばれています。積雲や層積雲があると高確率で発生するため、出会いやすい現象です。

ブロッケン現象 円状の虹が観測できる 写真©『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』
また、太陽の反対側の席では、窓側の空だけで雨が降っていると、虹も見ることができます。しかも、飛行機からであれば、丸い虹と出会う可能性があるのです。
虹の本来の姿は、太陽を背にしてちょうど飛行機の影がある位置、「対日点」を中心とした円状です。地上の場合、対日点が地平線より下にあるため、空にかかる円の一部しか見えませんが、飛行機からの場合、運がよければ虹の円をまるごと見られることがあります。
また、積雲や層積雲などの雲があるときは、離陸後あるいは着陸前、飛行機が雲の外に出るか出ないか、ギリギリ雲の中にいるときに窓の外に注目すると、円状の「白虹」に出会えることがあります。
空の虹色のフルコース
太陽側の席で出会える現象も多く、機体が昇った空に薄雲が広がっているときなどには、様々な現象を同時に見られることがあります。
地上から空を見上げた場合、太陽の周りに円状の「ハロ」ができますが、地平線が空を遮るため、ハロ以外の「アーク」と呼ばれる虹色の現象は地上からは空が見えている場所にだけ現れることになります。
一方、空から眺める場合、遮るものがないため、とても多くのアークに出会えます。
太陽の周りにはハロ、その左右に「幻日」、それらをつなぐ「幻日環」。さらに、太陽の上には「上部タンジェントアーク」、下には「下部タンジェントアーク」。てんこ盛りのフルコースを楽しむことも可能です。

ハロ、幻日、幻日環 写真©『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』
深く、吸い込まれるような空の青
飛行機に乗るとき、味わってほしいのが「空の青さ」です。
空は高いほど青く、地平線近くでは白っぽくなります。これは、地表近くにはチリなどの微粒子(エアロゾル)や水蒸気といった光を散乱するものが多いためです。
空が青いのは、私たち人間の目で認識できる光である「可視光線」のうち青い光が散らばっているためです。

飛行機から見ることができる 圧倒的な空の青さ 写真©shutterstock
エアロゾルが多い空の下のほうでは様々な色の光が盛んに散乱し、複数の色の光が重なった結果、白っぽく見えるのです。
反対に、高い空にいるときに上を見ると、すごく深い青になっています。水蒸気やエアロゾルの量が極端に少ない上空では、青そのものがダイレクトに目に届くからです。深く吸い込まれるような青に包まれるのも空の旅の楽しみです。
上空で輝く雲海
また、飛行機の窓から下を見ると、海上は晴れているのに、陸上では雲ができている光景に出会うことがあります。それは、海と陸では比熱が異なるからです。
海よりも陸のほうが比熱は小さく、「温まりやすく冷めやすい」という特性があります。比熱とは「ものの温度を上げるのに必要な熱量」のことで、陸の比熱は海と比べて4~5分の1くらいです。日中に日差しを浴びた陸の地表は急速に温まり、熱対流が発生します。

陸の上に広がる雲 写真©shutterstock
その熱対流による「上昇気流」が低い空に積雲を発生させるのです。
つまり、陸のほうが海よりも大気の状態が不安定になりやすいということです。海は、日中でも温まるのに時間がかかるため、海上の大気は比較的安定しています。積雲を発生させる対流が起こりにくいのです。
雲の状況、特に積雲の発生状況を見れば、どこで大気の状態が不安定になって熱対流が発生しているのか、どこが安定しているのかがわかります。
飛行機に搭乗する前には、これから空の旅でどんな風景に出会えそうか、気象衛星画像をチェックするのも楽しいです。
航路の低い空に雲が広がっていればブロッケン現象に出会えることが期待できますし、高い空に氷の雲が多くあれば、その上空で眩しく輝く雲海が待っていることが想像できます。
文/荒木健太郎
写真/©読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし ©shutterstock
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社刊)
荒木健太郎

2023年9月27日発売
¥1,980
394ページ
978-4478108833
気象学は、物理、数学、化学、統計などを駆使しながら、雲や雨の発生を読み解き、予測する…。複数の学問知を導入した知的な面白さに満ちた学問である。本書は人気雲研究者が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介!
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