キンモクセイの学名に牧野氏の名前
幕末の土佐で、裕福な商家の長男として誕生した牧野富太郎。幼い頃より草花に心惹かれた富太郎少年は、たったひとりで土佐の植物を研究し、22歳のときに上京。東京大学理学部植物学教室に出入りを許され、本格的な植物研究に没頭する。
明治22年(1889年)に新種「ヤマトグサ」に日本で初めて学名をつけて発表して以来、94歳でこの世を去るまで1500種類以上の植物に名前をつけたと言われている。
たとえば、金木犀(キンモクセイ)」の学名は「Osmanthus fragrans var. aurantiacus Makino」。名付け親である牧野氏の名前が入ったこの植物は、秋の訪れを告げる香りとして愛されている。
ユーミンやYOASOBIの曲名にもなっている春紫苑(ハルジオン・ハルジョオン)は、北アメリカ原産の外来種。道ばたで咲くこのかわいい花に「春に咲く紫苑(キクの仲間)」という和名を付けたのも、牧野氏なのだ。
牧野氏本人と、最愛の妻の名前がつけられた植物もある。
和名・マキノゴケ、学名・Makinoa crispataと、どちらにも「マキノ」と入っているコケに名前をつけたのは、牧野氏と終生交流のあった植物学者・三宅驥一氏。
秋田県で採集されたこの苔は当初、別の名がつけられたが、牧野氏が千葉県・清澄山で採集して三宅氏が調べたところ、別のカテゴリーに属することを突き止めた。そこで、三宅氏は牧野氏へのリスペクトを込めて「マキノゴケ」と名付けたそうだ。
朝ドラ「らんまん」では、「寿恵子」として浜辺美波が演じている妻・壽衛さんは、13人の子どもを育てながら、夫の研究を支え続けた。しかし、念願だった一軒家を建てた直後に病に倒れ、54歳という若さでこの世を去る。
壽衛さんが病床にあるとき、牧野氏は仙台で新種のササを発見し、壽衛さん亡き後スエコザサと命名。『世の中のあらん限りやスエコ笹』という句を墓碑に刻んだ。
牧野氏は壽衛さんのお墓に植えようと庭で育てたが、そのスエコザサは今も、牧野家の庭、現在の練馬区立牧野記念庭園で美しい葉を広げている。
ところが、である。
このような美しい名前や、せつない名前を植物につけた牧野氏にも、「いくらなんでもこの名前はないんじゃない!?」と植物が抗議しそう草花もあるのだ。
ここからは、そんな残念な名前の植物を紹介しよう。