「学校に行きたくない」と子どもが言ったときの最大の禁句は「もう少しだけ頑張ってみなさい」…では、親として子どもの不安を爆発させない言葉とは?
親は“よかれと思って”言っている何気ない一言が、子どもの脳をダメにする可能性がある。子どもの脳をしっかりと育てるためには「言葉」を介した親子のコミュニケーションがとても重要になってくるというが、いったいどんな言葉が子どもをダメにし、どんな言葉がしっかり育ててくれるのか。『その「一言」が子どもの脳をダメにする 』 (SB新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『その「一言」が子どもの脳をダメにする』#2
子どもの「考える力」を奪う言葉
✕「(「塾をやめたい」と言う子どもに)もう少しだけ頑張ってみなさい」
〇「へえ、やめたいんだ」
頑張り続けなきゃいけない ワタル(中2)
進学塾に通うワタル。ある日、母親に「やめたい」と打ち明けました。
母親はワタルが弱音を吐いたときには必ず、「もう少しだけ頑張ってみなさい」とアドバイスをします。そうすることで、今までさまざまな危機を乗り越えてきたからです。ワタルは塾に通い続けることにしました。
そんなある日─。ワタルはささいな理由から、友達とケンカをしてしまいます。
「もう無理!」
ワタルはその翌日から、部屋に引きこもるようになってしまいました。

意見やアドバイスは差し挟まず、子どもの話を傾聴する
子どもが塾や習い事を「やめたい」と言うと、「こんなことでは、何をやっても続かなくなる」「ここで挫折したら、一生負け組だ」などと言って、必死になって反対する親御さんたちがいます。
ワタルは中2なので、脳育ての段階でいえば、もう前頭葉がかなり育ってきています。「塾をやめたい」と言ったのは、自分なりにしっかり考えてのことでしょう。
親は自分の思いを受け入れてくれるのか、ワタルの心は不安でいっぱいです。感情的な気持ちを静めるために、まずは、「へえ、やめたいんだ」と「オウム返し」をすることから始めてみましょう。
すでに前頭葉が発達しているので、親に本当のことを言うのが気恥ずかしくて、最初は「いやあ、もっと家でゲームをしたいんだよね」などと、論理が破綻しているようなことをわざと言ってくるかもしれません。そうだとしても、「なるほど、もっとゲームがしたいからやめたいわけだね。君はそう考えてるんだ」などと真顔でオウム返しをしていきましょう。
不安が落ち着いてきたら、そのうち子どもの方から本音を話し始めるでしょう。
「私立のS高校に行くために頑張ってたんだけど、やっぱ、そこまで成績伸びないなって、自分の限界がわかってきちゃったんだよね。じゃあ、私立じゃなくても、公立でもいいかなって思って。それなら、塾でそこまで頑張る必要ないし……」と本人なりのロジックを使って、説明してくれるでしょう。そこでも、親は意見やアドバイスなどは一切せずに、子どもの気持ちを根こそぎ拾ってあげます。
最終的に、それが彼自身の譲れない結論であるとすれば、それを呑むことも必要だと思います。親がもったいないと思い、「もう少しだけ頑張ってみなさい」と無理に続けさせるのはいけません。ここで無理をして塾に通い続けると、ワタルの脳内は不安でいっぱいになってしまいます。
不安は風船のようにギリギリまで膨らみ、あるとき、友人とケンカするなどの新たな不安要因が加わることで、ワタルのケースのように、一気に爆発しかねません。
親はいつも「一枚上手」の「知恵者」として振る舞う
「塾をやめる」と決めたら、子どもにネガティブな気持ちを抱かせないように、親は「知恵者」として振る舞わなければいけません。
ユーモアのある言葉を使って、「塾のお金かからなくなったからさあ、その8000円をマッサージに使わせてもらうね」などと言ってみましょう。
「何でオレに回ってこないんだよ~!」などと子どもがツッコミを入れれば、笑いに変換することができます。笑いに変えることで、「塾をやめるって言うと、お母さんに怒られるかもしれない」「お母さんにがっかりされて突き放されるかもしれない」などと思っていた子どもの気持ちはスーッと軽くなっていきます。
深刻な気持ちはどこかに消え、「何これ?」と肩透かしをくったような気持ちになるでしょう。
塾をやめたからといって、死ぬわけではありません。もちろん、塾は家庭生活の外のことですから、家庭生活の「軸」にも全く抵触しません。
むしろ、一度やめてみて、自分なりに冷静に前頭葉で考え、また頑張ってみようと思う子どもたちも結構います。やめた後に、子どもたちをいかにポジティブな方向に転換させられるか。それが親の力の見せどころなのだと思います。

3歳、4歳の「やりたい!」は鵜吞みにしない
3歳とか4歳の子どもが「やりたい!」「楽しい!」と言ったからと、塾や習い事を始めさせるケースを最近多く見受けます。
しかし、この年齢の子どもの言うことは鵜吞みにしないようにしましょう。
この年齢は、まだまだ自分で考えて行動する脳が育っていません。親から見て全く向いていないように見えたり、サボっているように見えたりするなら、やめさせてOKです。
幼児期は無理に習い事をさせるよりも、親子で一緒に遊んだり、出かけたり、できるだけさまざまな経験をさせてあげる方がいいでしょう。
脳は、同じ刺激を与え続けられるよりも、多種多様な刺激を与え続けられることで活性化するからです。
多種多様なコミュニケーションを楽しむことが、子どもの脳を豊かに育てることに役立ちます。
「学校に行きたくない」も脳育ての糧
「もう少しだけ頑張りなさい」は、「学校に行きたくない」と子どもが言い出したときにも使われる言葉です。
「子育て科学アクシス」で「ペアレンティング・トレーニング」を学ばれている親御さんで、次のようなケースがありました。
ユカ(小4)はある日、「学校に行きたくない」と言い出しました。
母親は、私たちの理論を学んでいるので、慌てずに、「そうなのね、行きたくないのね」とオウム返しをしました。すると、「うん、担任の先生がいつも怒鳴ってて、その声が怖いの」とユカは休みたい理由を話し始めました。
「いいよ。でも、ズル休みだから、家には一人で置いておけないよ。じゃあ、一緒にお母さんと出かけようか!」と母親はユカを自分の職場に連れて行くことにしました。

母親の同僚はユカも知っている人ばかり。みんなやさしく迎え入れてくれるのですが、最初に必ずみんなから「あれ?ユカちゃん、学校は?」と聞かれます。
ユカは母親に「ズル休みであることを隠さないこと」と約束をしていたので、その度に「今日はズル休みなの」と答えました。仕事が始まると、母親はもちろん、誰もユカの相手をしてくれません。ユカは休憩室の片隅で、一人で絵を描いて過ごすしかありませんでした。
1日が終わり、家に帰ってくると、「明日から学校に行くことにする」とユカ。
「今日1日、とっても退屈だった。先生が嫌いでも、学校に行く方がましな気がしてきた」と続けました。ユカは、1日学校を休むことにより、自分なりに前頭葉を使って考えて、「学校に行きたくない」という問題に対する答えを出したのです。
もし子どもに「学校に行きたくない」と言われたら、そのネガティブな気持ちを親はいったん受け止めて、その上で、「考えるための材料」を与えてみましょう。ユカの場合は、母の職場という普段と異なる環境で一人きりで過ごすことが、「考えるための材料」でした。
どんなトラブルも、脳を成長させる糧です。あくまで答えを出すのは、子ども自身。大人は、子どもに気がつかれないようにさりげなく、その手を差し伸べてあげましょう。
文/成田奈緒子、上岡勇二
その「一言」が子どもの脳をダメにする (SB新書)
成田奈緒子、上岡勇二

2023/10/6
¥990
240ページ
978-4815622350
親の「何気ない言葉がけ」が子どもの将来を決める!
脳科学×心理学×教育学でわかった
認知力、自律力、思考力
を奪う言葉、伸ばす言葉25
子どもの脳を伸ばす
科学的に正しい言葉がけ
「もっとしっかりしなさい」「あなたのためを思って言ってるんだから」「大丈夫だよ」「頑張って偉いね」――いずれも、親が我が子につい言ってしまいがちな言葉である。しかし、このような、親が良かれと思って発した「一言」が子どもの脳に深刻な悪影響を与えてしまう。子どもの認知力、自律力、思考力を伸ばすために親がすべき、正しい言葉がけとは?
序章 最新脳科学が解明した『子どもの脳を壊す』親の一言
第1章 子どもの自信を奪う一言
第2章 子どもの感情を無視する一言
第3章 子どもの可能性を狭める一言
第4章 子どもの自律心を奪う言葉
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