大阪湾にはクジラのエサはほぼない
現場で釣りをしていた70代男性もうなずく。
「このあたりは冬場は魚おらへん。せいぜい、ボラとチヌが釣れるくらいや。エサを探して大阪湾に迷いこんだという人がいるようやけど、絶対にちがうな」
ということは、マッコウクジラはこのまま淀川河口で死んでしまう運命なのか⁉
この疑問に日本鯨類研究所の田村力(つとむ)資源管理部門長がこう答える。
「エサを追って大阪湾に迷い込んだのか、体が弱って大阪湾に漂着してしまったのか、正確なところはわかりません」
ただ、可能性としては「漂着説」の方が高いという。
「マッコウクジラは深い海に潜ってイカなどを食べる生き物。大阪湾にはそうしたクジラのエサになるようなものはいません。だから、エサを追って淀川河口に迷い込んだ確率は低いと思います」
田村管理部門長が注目するのは淀川河口周辺の水深だ。
「この一帯は水深2~3メートルほど。そもそも、マッコウクジラはそんな浅瀬を泳ぐ生き物ではありません。しかも、とても音に敏感な習性なのに、海上保安庁の船が近づいてもスクリュー音から逃げずにずっと一か所にとどまっている。逃げたくても動けないほど、元気をなくしていると考えてもおかしくありません」