編集中に再確認したのは、デモに参加した人たちの香港への強い愛情
──日本では1959年から60年と、1970年に安保闘争があり、学生運動が高まった時代がありますが、特に1970年の時はときの佐藤内閣が徹底した取り締まりを施行したことで、組織内が分断され、運動が下火になった経緯があり、その世代から挫折体験を聞く機会もすくなくありません。監督たちは、事件からまだ3年ほどしか経ってなくて、当時を振り返るにはまだ早いのですが、この香港理工大学包囲事件を今、どのようにとらえているでしょうか?
「あれから3年たって、今となれば、気分も少し軽くはなったのですが、映画の編集の作業中、自分たちの撮った映像素材を改めて見直したところ、デモに参加した人たちの香港への愛情がやっぱりすごく強くて、忘れることができません。今、香港では日々、様々なものが消えていっています。デモをしている間、ずっと難しい決定を我々はしてきたのですが、それに対して、あれは正しかったのか、間違いだったのかと決めつけず、もうちょっと当事者の立場となって、どうすべきだったのかを考えた方がいいのかなと思っています」
日本での公開を機に討論が起きれば、その事実が香港人への救いとなる。
──この映画と出会った私たちに何かできることはありますか?
「日本を含め海外の方々には、まずは作品を実際に見てもらって、内容について討論が起きれば、と思います。要は香港に関心を持ってもらえることが、香港にとってすごく大きな助けになるからです。討論がなぜ大切かというと、もはや今の香港では討論をする人たちを見ることもできないし、討論すらできない。
今回のように日本で上映したという事実は、必ず香港に戻っていきます。日本でこの映画を通して討論があったということは、香港人たちにとっても救われる気持ちになります」
──私はやっぱり親の気持ちで見たので、自分の子供が政治に対して異議を唱え、闘うという決意をするときには、何を伝えればいいでしょうか。
「若い世代の社会運動が終わって、家に帰って、日常に戻ってくると、そのとき、やはり家庭の中で様々な言い争いがおきることがあります。でもあの民主化デモは、戦争並みのトラウマで、香港の今の子供たちは、わずか15歳、16歳で、ひどく心に傷を負っている状態だと言えます。
親世代の人たちは、自分が子供だった時、そんな大きな経験を多分していないと思います。なので、親だけじゃなく、社会全体で、今後、傷を負った子供たちをどうケアしていくのか、それが今の香港ではとても重要な課題になっていくかと思っています」
理大囲城
2019年11月、香港の民主化デモが拡大する中、香港理工大学でのデモに参加した若者たちが、大量の警察に封鎖され、外部に出ることができなくなった事件を、大学構内の内側から記録したドキュメンタリー。
デモ参加者として参加し、カメラを回し続けた匿名の監督たちが「香港ドキュメンタリー映画工作者」の名義で完成させた。当初は香港でも上映許可が下りていたものの、2021年3月に上映禁止になっているが、世界各地の映画祭で上映され、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021では最高賞にあたるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した。
監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
原題:理大圍城
英題:Inside the Red Brick Wall
2020/香港/カラー/DCP/ステレオ/88分
配給:Cinema Drifters・大福
宣伝:大福
© Hong Kong Documentary Filmmakers
★上映情報★
●宮城県/フォーラム仙台(022-728-7866)2023年1月13日(金)より公開。
●東京都/ポレポレ東中野(03-3371-0088)公開中。
●千葉県/柏キネマ旬報シアター(04-7141-7238)2023年1月28日㈯~2月10日㈮
●大阪府/シネ・ヌーヴォ(06-6582-1416)2023年1月2日(土)より公開
●兵庫県/元町映画館(078-366-2636)2023年1月28日(土)より公開
●京都府/出町座(075-203-9862) 2023年1月20日(金)より公開
その後、順次公開予定
あわせてお読みください
映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス
香港民主化デモの街を疾走する青春映画『少年たちの時代革命』監督インタビュー。台湾アカデミー賞を席巻!製作秘話がまたスゴイ!!
「映画『少年たちの時代革命』『理大囲城』公式サイト