漫画に殺されるっていうのはすごくよくわかります(江口)
本宮 『やぶれかぶれ』(1982〜1983年)じゃないけど、ある時、夜寝ながら「(政治家の)田中角栄のとこ行ってみようかな」と思って、朝起きて車乗ったら、うちのかみさん(漫画家のもりたじゅん氏)が「あんたどこ行くの?」って言うから、「田中角栄に会いにいってくる」って言ったら「バカか」って(笑)。
それでそのまま目白の田中角栄の家へ行って、巨大な門をコンコンと叩いたら、中からおまわりさんが3人出てきたんだよ。「なんだ、あんた」って言うから「田中角栄さんに会いたい」って言ったら、「いいから、シッシッ」って追い返された。
江口 ヤバい人ですね(笑)。
僕は本宮さんが千葉県知事になるのがいいと思いますけど、本当に。東京都知事でもいいけど(笑)。
ところでそれで思い出したんですが、「少年マガジン」で『群竜伝』(1972〜1973年)ってやったじゃないですか。記憶違いかもしれませんが、『男一匹ガキ大将』が休載か何かしてるときに始めてるんですよね? 多分時期がかぶってるんですよ。あれってよく描けたなぁと思って。
だって、本宮さんのバリューがすごく上がってるときで、「少年ジャンプ」が他社に描かせるなんて、とんでもないじゃないですか。どうして「少年マガジン」で描けたんですか?
本宮 あれ、大もめにもめたんだよね。
江口 それは思いますよ。
本宮 漫画でも小説でも何でもそうなんですけど、真剣にそれと立ち向かうと漫画家は漫画に殺されるんですよ。
それは俺もガキ大将描いてる途中で経験して、これはこのままだと漫画に殺されちゃうって。そうすると、もう漫画家やーめた、になっちゃうでしょ。
それを実感として感じて、だからいったん漫画家として大事なことはみんな捨てちゃおうと思って。漫画に対して真剣に向き合うのは捨ててね。
それがバレてるからだろうけど、俺、漫画の「賞」って一つももらってないのよ。くれるって言われても断るけどね。ハハハ。
読者を面白がらせるんじゃなくて、俺が面白いのが一番。
江口 なかなか出来ることじゃないですよ。
本宮 江口さんも好きな仕事だけやってるでしょ?
江口 いや、そうってわけでもなくて……。
最近ね、もう広告屋さんの言いなりに描いてるっていうか。今日、ここに来る前も「修正してくれ」って言われて、「もう嫌だ、もうやらん」と。「この部分がどうのこうの」とか言われて、いろいろ鬱屈してますよ。本心は漫画を描きたいんで。
ただ、漫画に殺されるっていうのは、すごくよくわかります。実際に殺された人も周りで見てきたし。
本宮 真面目で真剣な人ほど殺されてる。
江口 僕はもうそこから逃げちゃったんで、なんとかこうやって生きてますけど、確かに怖い瞬間はありますよ。
本宮 漫画家の中には職人系と作家性を持った系と二通りいると思うんだけど、大体絵を見るとわかるんだよね。
今の漫画を全然読まないから一概には言えないけれど、一作品だけを長く描いてる漫画家は、みなさん、二作目とか三作目とか描かないんだろうね。一作が長いじゃん、今。その一作描き終わったら漫画家辞めるんじゃないかな。
でも寡作だろうが多作だろうが、描いた作品が自分自身にとって楽しいもので、かつ人気も金も自分の立場も気にしないっていうことになれば、それが本当にベストのものを見つけられたってことになるんですよ。
企画展 江口寿史イラストレーション展
「彼女 -世界の誰にも描けない君の絵を描いている-」
流山市を拠点とする「千葉パイレーツ」の活躍を描いた漫画『すすめ‼パイレーツ』や、『ストップ‼ひばりくん!』などで知られる漫画家・江口寿史(1956 ~)は、同時代の若者の音楽やファッションを取り込んだ作風などによって、その後の漫画のスタイルを変革し、多様なジャンルのアーティストに影響を及ぼした。
早い時期より作画への関心を深め、やがて音楽アルバムのジャケットや化粧品とのコラボなどによって、今や日本を代表するイラストレーターとして活躍中。
本展覧会では、江口の45年の軌跡を約500点の魅力溢れる作品で紹介する。
撮影/尾形正茂(sherpa➕) 取材・文/米澤和幸(lotusRecords)
©本宮ひろ志/サード・ライン
©本宮ひろ志/集英社