「使う人のことを第一に考える」唯一無二のIT企業
「IT業界のリーダー」としての責任を感じさせる取り組みが、もう1つある。それは、プライバシーに関する取り組みだ。
グーグルやメタ(旧フェイスブック)に代表される主なIT企業は、広告収入を収益源としている。より効果的な広告で収益を増大させるために、それらのサービスを使う人々が、「何時頃、どこにいるか、どんなWebページを見たか」といった情報を収集してきた。
この流れに一石を投じたのがアップルで、WebブラウザのSafariに「覗き見」を防止するシステムを組み込んだり、覗き見しようとしているWebサイトなどがあると注意を促したり、アプリ流通を担うApp Storeで、それぞれのアプリがどういった情報を覗く可能性があるか表示することを義務付けたりと、ユーザーのプライバシーを守るために、さまざまな手を尽くしている。
IT企業にプライバシーを覗かれることをそれほど問題に思わない人は、カナダ人アーティストであるカイル・マクドナルドが山口情報芸術センター(通称・YCAM)とのプロジェクトで開発した「鎖国エクスプローラ」(https://sakoku-explorer.ycam.jp/)というソフトを試して欲しい。グーグルがあなたについて集めた情報をカレンダー上に整理して表示するソフトだが、自分の行動がここまで筒抜けだったのかと驚かされるはずだ。
アップルは、巨大IT企業ということで、よく「GAFA」といった形でほかのIT企業と一括りにされることがある。しかし、これは誤解を広げる実に雑なまとめ方だ(それに、そもそもフェイスブックがメタと改名したので、呼び方として古くなってしまっている)。
アップルは時価総額世界1位になってからの11年間、その座に安住することはなく、世界一の財力をこれまでになかった地球にやさしいものづくりや、我々がいつの間にか忘れていた「使う人のことを一番に考えたIT技術」の開発に費やしてきた。
環境問題とプライバシーへの取り組み。これら2つの点において、アップルは他の企業を大きく引き離すリーダーであり、他の企業はアップルに追従しようとしているが、数年単位での遅れを取ってしまっている状況だ。
今のアップルは、たしかにジョブズ時代のアップルとは雰囲気が変わったところがあるかもしれない。しかし、だからといってアップルの牙城がすぐさま崩れる、ということは当面ないだろう。
文/林信行