経営体制とものづくりの変化

アップルの新製品発表会は、毎回数百万人が視聴して、翌日には世界中のテレビや新聞のニュースになるという「ほかの企業ではちょっとあり得ない」イベントだ。

ジョブズ時代は、彼自身が発表を行い、それに魅了された世界中の人々が追随している雰囲気があった。これに対してクックは、そもそも1人で新製品を発表するようなことはせず、アップルの重役たちとのチームワークで新製品を発表する。しかも、ジョブズ時代は少なかった女性重役や、白人以外の人種の重役も目立つ。

あらためて振り返るティム・クックの計り知れない功績。“ジョブズなきApple”が、この先も「安泰」な理由_3
2022年6月に開催された開発者向けイベント「WWDC22」の様子(写真/apple.com)

そして、「製品の作られ方」も進化した。

アップルのものづくりは、ジョブズ時代から極めて先進的だった。ほかの企業の多くがプラスチック製のパソコンやスマートフォンを当たり前にしていた時代に、いち早くアルミ素材に目をつけ、その財力を活かして、中国の下請け製造業者に当時まだ高価だった日本製の精密な工業機械を大量に導入。年間2億台近く売れるiPhoneを「大量生産品とは思えない品質」で作り始めた。

ちなみに、日本を代表するプロダクトデザイナー・深澤直人氏は、大量製造品でありながらも1つ1つが工芸品のような高い品質を持つアップルのものづくりを「インダストリアル・クラフトマンシップ(工業的工芸品)」と呼んでいる。

このアップルのものづくりが、クックの時代では「より環境に配慮したものづくり」へと発展する。最近では、ほとんどのアップル製品が再生アルミや再生プラスチックといった再生素材の採用比率を高めている。

リサイクル素材で作られた製品は、表面がざらついていたり、色がくすんでいたりと質が落ちる印象があるが、アップルが凄いのは、製品の見た目の品質を一切落とさずにこれを実現していることだ。

また、再生素材などを使った環境にやさしい製品は、少し価格が割高になることが多いが、アップルはほとんど価格を変えずにこれを実現している(日本では価格が少し上昇したが、これは円安の影響である)。

さらにすごいのが、アップルが開発した3種類のロボットだ。アップルの再生工場に置かれたこれらのロボットは、十数種類のiPhoneの機種を瞬時に見分けて、それを部品レベルにまで分解。回収した部品は、次のiPhoneづくりに役立てられる。

回収素材の1つに磁石などに含まれる「希土類」という素材がある。これまでは地球上のどこかの鉱山に巨大な穴を掘って採掘していた。しかし、これらのロボットのおかげで、今では鉱山2000トンから取れるのと同じ量の希土類を、1トン分のリサイクルiPhoneから取ることが可能だという。

あらためて振り返るティム・クックの計り知れない功績。“ジョブズなきApple”が、この先も「安泰」な理由_4
年間最大120万台のiPhoneを分解できるアップルのリサイクルロボット「Daisy」(写真/apple.com)

これはアップルにとってのコスト削減以上に、毎年、止まることなく数億台単位で作り続けられるスマートフォンの製造販売というビジネスによって、これ以上の環境破壊が進むことへの1つの大きな抑止力になりそうだ。