ストーリーはあらゆる領域を越える――その強さを信じて
――そして今回、一冊の本として、幅広い作家が一堂に会する豪華なアンソロジーが生まれました。
宮川 この作家陣を一度に読める本はなかなかないと思います。「モノ×物語」というひとつのテーマで、作家の技や筆致を堪能できる一冊。すごく贅沢(ぜいたく)ですよね。読み比べるのも楽しいと思います。
――オーディブルでの取り組みもそうですし、これを起点に様々な楽しみ方も生まれそうですね。
宮川 今回はSNSで連載する新しい小説の楽しみ方から始まり、それを朗読で聴くオーディオブックという形にし、最終的にトラディショナルな紙の本にするという、3つの形に繋げることができました。
書籍の楽しみ方もこの数年で選択肢が増えています。数年前にメルカリの役員がビジネス本を倍速の音声で聞いているのを見て驚いたことがありますが、個人に合った媒体や手段が広がっているのはいいことだなと思いますね。
――今後も温めている企画はありますか?
宮川 今回のプロジェクトで、情報が溢(あふ)れている時代だからこそストーリーが持つ力を改めて強く感じることができました。面白いから伝わる。何より、人の記憶に残る。
来年、メルカリは10周年を迎えるのですが、実は今、クリエイティブチームと一緒にメルカリのデザインとコミュニケーションを整理している最中なんです。よく言われますが、企業にもストーリーがとても重要な時代です。言いたいことを「情報」という点で発信するのではなく、いかに「物語」として紡いでいくかが、結果的にその企業のブランドになっていく。
今回、「モノガタリ by mercari」というプロジェクトを2年間にわたり実施し、多くの方に見ていただいただけでなく、集英社さんやAmazonさんをはじめ新しいステークホルダーとの展開にも繋げられたことで学ぶことが多くありました。それを今度は企業のストーリー、ブランドを紡いでいくことにも活かしたいなと思っています。これからも「モノガタリは終わらない」という気持ちで、挑戦していきたいです。
取材・文/明知真理子 撮影/五十嵐和博