ハードな社会問題を描いた作品も
そして、ここに2つのドラマシリーズが連なる。その一つが2021年3月配信の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』でキャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース)から彼のヒーロー活動の象徴だった「盾」を受け継いだファルコン(サム)。
しかし、彼はその重責に悩み、一度は盾をその手から放すという選択をする。一方、「ウィンター・ソルジャー」ことバッキーは親友であるスティーブが託した想いをサムに受け継いでほしい。そんな二人が主人公の、いわゆる「バディもの」だ。
背景として描かれるのは、差別と分断、SNSといったリアル社会につながる問題だ。黒人であるサムが二代目の「キャプテン・アメリカ」になることへの反発、「サノスによる消滅〜帰還組の方が優遇されているのでは」という社会に渦巻く疑念、そしてSNSを起点に盛り上がるテロ組織–––––。
単なる善と悪の対立ではなく、一筋縄ではいかない問題に立ち向かう、新たなヒーロー像が描かれている。
そして『ロキ』(2021年6月配信開始)。タイトル通り、主人公は『アベンジャーズ』シリーズの敵でソーの義弟・ロキ。屈指の人気ヴィランが活躍するドラマシリーズだ。
これも『アベンジャーズ/エンドゲーム』を背景にしている。同作では“指パッチン”をなかったことにするためにヒーローたちが過去の世界を訪れるが、そのときに生じたトラブルに乗じて、ロキが四次元キューブを手に入れる姿が描かれた。
これにより時空を乗り越え、アベンジャーズの手から逃れることに成功したロキ。つまり、アベンジャーズのタイムトラベルにより、歴史が変わってしまう。分岐した世界、つまりマルチバースが生まれ、ここであらためてMCUにマルチバースの概念が取り入れられた。
つまり、並行世界には多数のロキがいる。このシリーズでは、女性のロキ(シルヴィ)、子どものロキ、初老のロキ、黒人のロキ、“ワニ”のロキまで登場。そして、世界の歴史を歪めたとして我々がよく知るロキを捕らえた“世界の時間を監視する”「TVA(時間変異取締局)」という謎の組織が登場する。
こちらも最終的には「世界の歴史」にまつわる謎を巡る、壮大なストーリーになる。また、シーズン2の制作決定も発表されている。
マルチバースという意味では、2021年8月配信開始のマーベル・スタジオ初のアニメ作品『ホワット・イフ...?』もMCUの中で異彩を放つ。
ここで描かれるのは「もしも」の世界。アベンジャーズのヒーローたちに、われわれが観てきた歴史では起こらなかった展開が訪れたら……そしてこれらのエピソードはただの「もしも」ではなく、MCUの各マルチバースで起きた出来事というのがポイントだ。
また、本作は2020年に惜しまれつつも命を落としたブラックパンサー/ティ・チャラ役チャドウィック・ボーズマンが、『ホワット・イフ...?』に登場したティ・チャラ役を最後に演じたことでも話題となった。