自分たちの足元を考える――神道のモチーフと日本

『君の名は。』以降(兆しとしては2011年に公開された劇場用アニメ4作目『星を追う子ども』からあったといえますが)、新海作品は神社や巫女の舞をはじめとして神道のモチーフを好んで用います。

それは昨今のスピリチュアル・ブームと響き合うものでもありました。『天気の子』における「ムー」とのコラボからは、制作陣がオカルト的なものにもかなり意識的であることも伝わってきます。

一方、本作における神道の要素はファンタジー性を強固にするためのものとして、物語に血肉を与えています。近年、ハリウッド製のアニメーションでも、非欧米圏の神話への着目という傾向がありますが、それと響き合うものにも見えます(新海作品のなかでは『君の名は。』と『すずめ』は明らかにディズニー的な構造やモチーフを活用しており、そういったハリウッドの新傾向への目配せも意識されているはずです)。

世界的な文脈を考えると、2000年代終盤以降、アイルランドで活躍するカートゥーン・サルーンというスタジオが当地の神話を用いたユニバーサルな子供向けアニメーション長編を3本「ケルト三部作」(『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー うみのうた』『ウルフウォーカー』)として発表し、米国アカデミー賞のノミネート常連になっていたことを思い出します。

それは、この激動の時代において、おそらく自分たちの足元を見直すフィクションを提供する試みでしたが、同様のスピリットを、『すずめ』には感じるのです。自分たちが踏みしめる大地について考えるための、頑強なファンタジーを作るのだ、という。

本作は宮崎県をスタート地点として(主人公の名字は「岩戸」であり、『古事記』に描かれた日本創生の神話とのつながりが暗示されているのは間違いありません)、神戸、東京、そして東北へと進んでいきます。

あたかも地震を通じて日本の歴史を問い直す旅路のようでもあります。昭和のヒット曲が流れるなか東日本大震災の被災地を巡る後半の展開は、震災のみならず、昭和を供養しきれていないと暗に語っているかのように読めないこともありません。つまり、自分たちが辿ってきた歴史という「足元」を見つめる、ということです。