新海誠はさらに「成長」した

新海誠が『すずめの戸締まり』で描いた生者と死者の境界線_2
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拙著『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』は、「アニメをひとりで作る」個人作家からスタートして、国民的作家にまで上り詰めた新海誠監督のキャリアとその作品の特徴を、世界のアニメーション史から考えてみる本でした。

個人作家出身であるがゆえにリソースの配分の仕方が異なること(作画による運動描写よりも言葉、背景、コンポジットを重視する)、さらには、人物に対して背景画が超越することによって現代人の孤独と無力を描き出していること(一方で、その無力な人間を肯定し、励ますものでもあること)が、新海誠監督のオリジナリティだと指摘しました。

新海監督は「巨大な個人制作」をする作家――たくさんのスタッフの力を借りながらも、今でも制作の最初と最後、つまり脚本と編集を「個人で」やっています――として、初めは個人の心情など小さな物語を語ることからスタートしつつ、『君の名は。』(2016年)以降は震災や気候変動など現代の日本に暮らすものであれば誰もが他人事ではいられない題材を取り上げて力強い物語を語る方向へとシフトしていくことで、どんどんと、活動のスケールを大きくしています。

2022年10月に出版された拙著で取り上げたのは、『天気の子』(2019年)に至るまでの「成長」の過程でした。出版のスケジュール的に最新作『すずめの戸締まり』(以下、『すずめ』)についてはあとがきで少し触れるに留めていたのですが(8月に刊行された原作小説を読んで滑り込ませました)、この文章は、全4章の本書の続き、「第5章」のテイで、この3年ぶりの新作について、取り上げてみたいと思います。

では果たして、『すずめ』はどういう作品だったか。国民的作家となった新海誠が、これまでよりもさらにスケールアップした姿を見せてくれた作品、といえるのではないかと思います。