引き続き、タレントの大久保佳代子さんのインタビューをお届けします。
大久保さんが雑誌『Marisol』(集英社)で8年間連載していたコラムを一冊にまとめた著書『まるごとバナナが、食べきれない』(集英社)。“食とエロス”をテーマにしたこの一冊は、大久保さんの思い出の食べ物と共にエピソードを綴るエッセイです。後半では、連載をしていた8年間を振り返りながら、今の生活と仕事、恋愛、これから迎える50代60代について語ってもらいます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
六本木のけやき坂でステーキを食べた時に「芸能界に入ったなあ」と実感
今回の取材は、大久保さんがよく訪れている東京・池尻大橋の飲食店『かがやま』で行われました。麦焼酎のソーダ割りやレモンサワーを飲みつつ質問に答える大久保さん。料理が提供されるたびに「これ美味しいんですよ」「みんなで召し上がってね」と声をかけます。常に周りを見て気遣う様子に先輩風や大物芸人感はなく、その場の空気をとても和ませています。
「気遣いというより、目に入っちゃうと言わずにいられないんです。若い人や周りの人が何をやっているか、つい目が行ってしまうんですよね。逆に『ここで言わないほうがいいのかしら』と声をかけなかったりすることもあります。OLをやっていたのもあるせいか、そういうのが自然と目についちゃう性質なんだと思います」
『まるごとバナナが、食べきれない』には、大久保さんの人生で印象深かった食、それと共に思い出されるシーンが描かれています。思い出の味は、実家の大きないなり寿司やおにぎり、愛知県のソウルフード・イワシ玉から、仕事で食べたステーキ、ロケ先の台湾のホテルで食べた海鮮粥など、多彩な食べ物と人の営みが綴られています。
「食べ物を思い出すと、食べている風景が思い浮かぶんです。この人と食べていたな、この人とこういう関係だったな、その横にはこの人がいたな。記憶が人の顔と結びついてるんです。彼だったり、友達だったり、仕事仲間だったり。味覚と記憶がストレートにリンクしているんだと思います。本にも書きましたが、六本木のけやき坂でステーキを食べた時には、芸能界に入ったなあと実感しました。人間関係、人間性、その時の環境、仕事に対しての向き合い方だったりが、食べ物と共に鮮明に思い出されるんですよね」
“チンしたら逆に不味くなる10年以上使い込んだレンジ”を愛用中
ふだん食べている食事は、芸能人とは思えないほど質素なのが印象的です。「冷蔵庫にあるものを片っ端から切り刻み鍋にしたもの」や「乾燥ワカメを入れた素うどん」を食べたり、「傷がついた値引きの野菜」を購入したり。それは、18歳まで育った大久保家の生活が基本になっているからだと言います。
「昨晩作ったのは『まつや』の『とり野菜みそ』(金沢名物)をベースにした鍋、朝食べてきたのは(岐阜県)中津川の栗きんとん。どちらもいただき物ですが、こういうものがあるのはいい時ですよ。ふだんの食事が質素だからこそ、より外食がおいしく感じられます。あと高校卒業まで大久保家にいたことが、私の食生活には大きく関係していると思います。贅沢はしないこと。気を遣って食べる豪華なステーキやお寿司より、一人で食べるスーパーのお寿司の方が美味しいことも知っているんですよね」
食生活と同様、暮らしも想像以上に庶民的。本で書かれている“チンしたら逆に不味くなる10年以上使い込んだレンジ”に加えて、洗濯機も『無印良品』で10年ほど前に購入した縦型洗濯機を愛用しているそうです。
「ドラム型洗濯機も観音開きの冷蔵庫も、理想のパートナーができて引っ越した時に買い換えようと思って。その機会がなく今に至っているだけなんですよね。壊れたら買い替えるのでいいと思って。家電を買い替えると快適になるのはわかっていますが、基本が『不便じゃなければいい』なんです。飲めればいいと思ったら、コンビニの1000円のワインでいい。ただし、一度その良さを知っちゃったら戻れないものもありますよ。飛行機でエコノミーよりもビジネスがいいとか。自分の体を考えて、お金を払ってでも快適にした方がいいものは、しようと思っています。ただ天井知らずになるのは怖いと常々思っています」
お酒を飲むのも恋愛も、引き際はきれいでいたい
著書に収録されている「はじめに」と「おわりに」は、大久保さん自らが執筆しました。気取らない文体、ユーモアと冷静さのある語り口は、人柄そのものです。大久保さんの新たな才能を感じる書き下ろしパートは、ぜひ本でチェックしてみてください。
連載担当の編集者は「大久保さんは、いつも酔いすぎない美しい飲み方をしているのが印象的でした。帰り際がとても潔い」と感じていたそう。すると「飲みすぎると自分が楽しくないんですよ。見苦しくなるし、帰りたくなくなるのもあります」と大久保さん。ふだんからあまり感情を出すのが得意ではないことも、引き際の良さにもつながっているかもしれないと話します。
「自分の“生っぽい”ものを出すのが苦手なんですよね。多分、すごく汚くなるし、そんな自分に自信が持てないんです。だから引き際もきれいでいたいと思うのかもしれない。恋愛もそうですよね、恋愛をする上では、生っぽいものを見せなくちゃいけないと思うじゃないですか? だから、これから恋愛をするのはより難しいと思います。20代だったらできたかもしれないですよ。道端で私が誰かの足にすがりついていたら、どうします? 目も当てられないですよね(笑)」