和牛の価格が高い理由

「和牛、おいしいんだけど……でも高いじゃん!」
そう思って、なかなか手が出ないという気持ちもわかります。日本では1991年に牛肉の輸入が自由化され、外国産の安価な肉がたくさん入ってくるようになりました。
そんな状況のなかで、日本の畜産農家さんたちは外国産の安い肉と競争しなければなりませんでした。どうすれば和牛を買ってもらえるか、必死に知恵をしぼってきました。
その結果、和牛はいかに霜降りのやわらかい肉を作るかという方向性を追求していくことになったのです。

霜降り肉を作るのは難しく、時間がかかります。そのため、多くの需要に対して供給量は少なく、必然的に霜降りの肉がたくさん取れることを意味する「A5」の牛肉の値段が高くなっている現実があります。牛肉を買う消費者として、みなさんにはぜひこのことを知っておいてほしいと思います。
ちなみに日本人が大好きな和牛はここ数年、海外でも大人気! 海外には和牛のような霜降り肉がほとんどないため、味の良さと肉質のやわらかさが珍重され、A5の肉が人気を集めています。
 
2020年から和牛の輸出量は右肩上がりで伸びています。
2021年はコロナ禍によって消費者がインターネット通販や宅配を使って外食より安価に和牛を楽しめるようになったことなどが影響し、なんと2020年の倍以上の輸出量となりました。現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジア諸国に輸出されており、今後もますます輸出量が伸びると期待されているんですよ。
僕たちが「おいしい」と思っているものが海外でも評価されているいまの状況は、日本の農業にとってもうれしいニュースですよね。


品種改良によって生まれた「コシヒカリ」「博多あまおう」「和牛」の素晴らしさについて見てきました。日本には、ほかにも品種改良によって誕生した優れた農畜産物がたくさんあります。日本ではなぜ、これほど品種改良がさかんにおこなわれてきたのでしょうか。
 
理由はいくつか考えられますが、最大の理由は日本の地理的条件にあります。
日本は国土がせまいために広い農地を作ることができず、大量生産ができません。そこで、せまい土地でも毎年安定した量を収穫できるよう、品種改良に力を注いできました。雨に強い品種、暑さや寒さに強い品種、病気に負けない品種、害虫に強い品種などを作り出し、小さな農地でしか農業ができない弱点を克服してきたのです。

たとえば、日本の小麦の作付面積はアメリカのそれに遠くおよびませんが、1平方メートルあたりの収量は日本のほうがずっと多いのです。すごいですよね。これはまさに、品種改良の成せるわざです。

せまい土地でも効率よく、質の高い作物を安定した収量で確保する。そうした努力を続けながら、日本の品種改良は、味の良さを追求することにも力を注いできました。その結果、国内外から高い評価を受けるたくさんの品種が誕生したのです。海外と比べて農地に使える土地が少ないという弱点があったからこそ、日本の品種改良がこれだけ発展していったのです。

日本で作られるブランド米のほとんどが「コシヒカリ」の親戚?! 超優秀な品種改良の歴史に迫る! はこちら

『タガヤセ!日本
「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます』
白石優生 農林水産省 大臣官房広報評価課広報室
日本産だからといって全て和牛とは名乗れない? 和牛を取り巻く品種改良のヒミツ_3
河出書房新社
2022年7月26日発売
1562円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-309-61740-4
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