偏見の解消には専門的なスキルを
そんなことを考える中で最近目についたのは、P&Gジャパン合同会社の取り組みでした。同社は、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの三本柱として、「文化」「制度」「スキル」をあげています。「文化」や「制度」はよく見かけますが「スキル」というのは、あまり他では見られないので、目を引くものでした。
P&G社のWebサイトにはこのスキルについて「社員が日々の業務の中で多様性を引き出し、活用し合うスキル(能力)の育成」と書いてあります。
取り組む動機が「思いやり」であれ、学習した結果であれ、その動機を形にし、ビジネスなどに活かしてアウトプットしていくためには、ジェンダーに関する知見に加えて、各分野の知見が必要であり、その各分野に落とし込むためにはまさに「スキル」が必要になるはずです。
例えば、ビール・スピリッツメーカーとして有名なキリンビールでは、「女性」社員が子会社としてSPRING VALLEY BREWERY株式会社を立ち上げたといいます。ビールは中高年の男性が飲むもの、という固定的なジェンダーのイメージを覆し、見た目も色とりどりで、飲みやすいクラフトビールが、新たなビール文化をもたらしつつあり、ビール消費者の間口を広げることに貢献しているといいます。
このように、職場や組織のさまざまなレベルで、ジェンダーに関連する取り組みを展開することは不可能ではありません。そして、すでにいくつかの先進的な企業はジェンダーの視点をビジネスの場面でも展開しています。そのような企業には、ビジネスを通じてどのようにジェンダー平等の構造的な構築につなげられるかまで、さらに切り込むことが期待されます。
文/神谷悠一 写真/shutterstock