県立高校の収容人数も過大算定
茨城県原対課の作為を疑わせる材料がもう1つあった。避難所に予定されている茨城県立高校の面積データだ。やはり公表されていなかったが、県立高校約60校(中高一貫校含む)の体育館や武道場などが避難所に使われる予定になっていた。
きっかけになったのは、筑西市の担当者が漏らした奇妙な情報だった。
筑西市の担当者によると、2019年はじめごろ、茨城県原対課の職員が前触れもなく筑西市役所に現れ、市内にある県立高校4校の居住スペースの面積を伝えていったという。なぜ日時が不明なのか、本当に前触れがなかったのか、面積を伝えただけだったのか、多くの疑問が残る証言ではあったが、内容には信ぴょう性があった。
茨城県内で県立高校を指定避難所にしている市町村は多くない。指定避難所にしていない場合、市町村は県立高校の図面を持っておらず、県から照会を受けても体育館や武道場の面積を答えられない。確かに、すでに開示されていた2018年再調査の「生回答」を見ると、避難所一覧に県立高校が載っていない市町村が多い。こうした場合、茨城県原対課が県立高校の面積データを書き加えて避難元市町村に送ったと考えられた。
筑西市内の県立高校4校も指定避難所になっていない。原対課が筑西市に伝えた市内4校の居住スペースの面積は以下の通りだ。参考情報として公表資料から参照した体育館と武道場の合計総面積を併記する。
・下館一高 1934㎡(2385㎡)
・下館二高 2319㎡(2477㎡)
・下館工業 1389㎡(1767㎡)
・明野高校 1495㎡(1821㎡)
原対課が筑西市に伝えた居住スペースの面積は、確かに合計総面積より小さい。だが牛久市や坂東市のように一定の割合にはなっておらず、どうやら便宜的にはじき出した数字ではないようだ。そうすると、図面をもとに算出した厳密な居住スペースの面積だろう。原対課は県立高校の居住スペースの面積データを持っていると思われる。
分からないのは、筑西市以外には同様の情報を伝えられた形跡がないことだった。ここまで綿密に取材を重ねてきて、引っかからなかったとは考えにくい。もしかしたら、原対課は県立高校の居住スペースの面積データを持っているにもかかわらず、筑西市以外には伝えていないのではないか。だとすれば、避難元市町村に伝えられた県立高校の面積データは非居住スペースを含む過大算定の数字である可能性がある。これも変更後の回答が開示されれば、裏付けられるはずだ。
そして、県原対課が居住スペースのデータを保有していると仮定すれば、提供したのは茨城県教育委員会以外に考えられない。県教委にも問い合わせを繰り返したが、箝口令でも敷かれているのか、担当者は言葉を濁すばかりでまともに答えない。だが、「提出していない」とは言っていない。しつこく食い下がった。
2021年2月、県教委の担当者が「原対課からの依頼で県立高校の居住スペースの面積データを提供した」と認めた。担当者によると、2019年はじめごろ、県教委で保管している図面をもとに県立学校69校(特別支援学校などを含む)の体育館や武道場の居住スペースや、合宿所など避難に使えるスペースの面積をまとめた一覧表「原子力災害時における県立高校の避難県民収容可能面積」を作成し、原対課に提出したという。
県教委への取材と並行して、避難所に使われる予定の県立高校にも直接問い合わせた。ホームページで公表されていた耐震関係の資料から体育館や武道場の総面積は把握しており、体育館のアリーナといった居住スペースの面積を尋ねた。
驚いたのは、県立高校の校長や教頭、事務長たちが、自分たちの学校が原発事故時の避難所に予定されていることを知らなかったことだ。「うちが原発避難計画の避難所?」「寝耳に水の話」「県教委からは何も聞いてない」と異口同音に驚いていた。
30キロ圏内に市の北側が入る鉾田市は2020年3月に避難計画を策定済みで、県立高校については、市内の2校と県立鹿島灘高校(鹿嶋市)の計3校を避難所として使う予定になっていた。ところが鹿島灘高の担当者は「県教委や鉾田市からは何の連絡もなく、私は個人的に鉾田市のホームページを見て初めて知った」と打ち明けた。
鉾田市の担当者に問い合わせると、「伝えたと思っていたが、伝えた記録が残っていない」と、何ともはっきりとしない答えが返ってきた。こんな有り様で、いざ事故が起きたとき、避難者を受け入れられるとは思えない。