「足が速いほうを獲ろう」

北條は2年夏から3季連続で甲子園準優勝を経験した、全国区の選手だった。甲子園通算29打点は、清原和博(PL学園高/元西武ほか)と並ぶ歴代トップ。実績も知名度も抜群だった。

一方の鈴木には、甲子園実績も全国区の知名度もない。同僚スカウトの中には「鈴木は4位くらいでも獲れるのでは?」という声もあがったが、尾形スカウトは敢然と「3位以下では危ないので、2位でお願いします!」と主張した。二松学舎大付高への密着マークをしたことで、他球団の動静も把握できていたのだ。

実際に北海道日本ハムファイターズも鈴木の2位指名を狙っていた。日本ハムは2位指名するウェーバー順が広島より後だったため実現しなかったが、もし指名できていたら1位・大谷翔平(現エンゼルス)、2位・鈴木という恐るべきドラフト指名になっていたのだ。

最終的には当時の野村謙二郎監督の「足が速いほうを獲ろう」という意向から、広島の2位指名は鈴木に決まった。

とはいえ、ドラフト指名さえすれば選手が自動的に育つわけではない。鈴木は江藤智ら数々の強打者を育成してきた名伯楽・内田順三二軍監督のもとで、ハードな練習を重ねた。

金属バットの性能に頼ったスイングから、インサイドアウトのスイング軌道に修正した末に鈴木の豊かな才能は花開いた。2016年から6年連続3割以上の高打率を残し、昨年の東京五輪では侍ジャパンの4番打者として金メダル獲得に貢献した。

守備のミスを引きずる一面もあり、結果的に遊撃挑戦は実らなかった。それでも球界随一の強肩を武器に、ゴールデングラブ賞を5回受賞する名外野手になった。

カブスとの契約は5年総額8500万ドル(約100億円)と言われる。高校時代に鈴木の資質を見出した尾形スカウトは、感慨を込めてこう語った。

「僕はただ誠也をプロに導いただけで、あれだけの選手になったのは彼自身の努力のおかげ。あとは思い切りやってほしいです。カブスに決まった時も連絡をくれましたし、節目節目には必ず連絡をくれています。律儀にそんな気配りができてすごいですよね。メジャーでも普通にやれば数字は残せるはずですし、あとはケガをしないことを祈るだけですね」

これはと思った選手に食らいつき、あらゆる可能性を探る。カープならではのスカウティングによって発掘された大器は、満を持して世界に羽ばたく。


写真/AFLO