「学力世界一」の評判なんて気にしない

2016年に現場での導入が始まる頃、フィンランド外務省のオンラインニュース 「this is Finland」に教育専門家の談話が掲載されたのだが、そこにはとてもフィンランドらしい、でも日本人にとっては驚きの言葉があった。

「新コアカリキュラムによって、PISAによって得られた『学力世界一』の評判が落ちるのではないですか」という問いに対し、世界的に知られるフィンランドの教育学者で現在ニューサウスウェールズ大学教授のパシ・サルベリはこう答えている。

「そうかもしれませんが、それがどうしたというのでしょう。フィンランド的考え方では、PISAランキングの意義は取るに足りません。PISAは血圧測定のようなもので、時々自分たちの方向性を確かめるうえでは良いですが、それが永遠の課題ではないのです。教育上の決定を行う際、PISAを念頭に置いてはいません。むしろ子どもや若者が将来、必要とする情報こそが大事な要素となります」

国によってはPISAなどの国際的な学力調査を重視して、その成績向上を目標とした教育改革が行われているところもあるのかもしれないが、フィンランドのコアカリキュラムにPISAの結果はあまり関係しない。PISAはあくまでも一部の評価でしかないので、それだけで判断するのは短絡的だと考えられているからだ。

PISAの結果は国内の地域や学校間、生徒間の違いを見るために使われ、国際的な順位が直接的に教育改革に大きな影響を与えることもないのだ。

それよりも、ウェルビーイングを大事にし、大切なことをしっかりと見極め、生徒中心の学校の在り方や学びにフォーカスして変えていこうというのが、フィンランド流だと言えるだろう。


文/堀内都喜子 写真/shutterstock

フィンランド 幸せのメソッド
堀内都喜子
フィンランドが「学力世界一」から陥落しても詰め込み教育をしない理由_02
2022年5月17日発売
946円(税込)
新書判/256ページ
ISBN:978-4-08-721215-0
2018年から2022年にかけて、5年連続で「幸福度ランキング世界一」を達成。首都ヘルシンキは2019年および2021年には「ワークライフバランス世界一」に輝き、国連調査の「移民が感じる幸福度」ランキングでも第1位(2018年)。
他にも「SDGs達成度ランキング」で世界一(2021年)、「ジェンダーギャップ指数」で第2位(2021年)など、数々の指標で高い評価を受けているフィンランド。その背景にあるのは、”人こそが最大の資源で宝”という哲学です。立場を問わず全ての国民が平等に、そして幸福に暮らすことを可能にする、驚くべき「仕組み」とはいかなるものなのでしょうか。そして、日本はそこから何を学べるのでしょうか?最新の情報もふんだんに盛り込んだ、驚きにあふれる一冊です。
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