「学力世界一」の評判なんて気にしない
2016年に現場での導入が始まる頃、フィンランド外務省のオンラインニュース 「this is Finland」に教育専門家の談話が掲載されたのだが、そこにはとてもフィンランドらしい、でも日本人にとっては驚きの言葉があった。
「新コアカリキュラムによって、PISAによって得られた『学力世界一』の評判が落ちるのではないですか」という問いに対し、世界的に知られるフィンランドの教育学者で現在ニューサウスウェールズ大学教授のパシ・サルベリはこう答えている。
「そうかもしれませんが、それがどうしたというのでしょう。フィンランド的考え方では、PISAランキングの意義は取るに足りません。PISAは血圧測定のようなもので、時々自分たちの方向性を確かめるうえでは良いですが、それが永遠の課題ではないのです。教育上の決定を行う際、PISAを念頭に置いてはいません。むしろ子どもや若者が将来、必要とする情報こそが大事な要素となります」
国によってはPISAなどの国際的な学力調査を重視して、その成績向上を目標とした教育改革が行われているところもあるのかもしれないが、フィンランドのコアカリキュラムにPISAの結果はあまり関係しない。PISAはあくまでも一部の評価でしかないので、それだけで判断するのは短絡的だと考えられているからだ。
PISAの結果は国内の地域や学校間、生徒間の違いを見るために使われ、国際的な順位が直接的に教育改革に大きな影響を与えることもないのだ。
それよりも、ウェルビーイングを大事にし、大切なことをしっかりと見極め、生徒中心の学校の在り方や学びにフォーカスして変えていこうというのが、フィンランド流だと言えるだろう。
文/堀内都喜子 写真/shutterstock