大学の卒論でつまずくケースもある
幼児期から発達障害の特性がはっきり出ている場合、早い段階で診断を受けるケースがほとんどだが、割合からすれば少数だ。その場合は療育機関へ通ったり、あらかじめ特性への理解があり適切な支援を受けられる進学先・就労先を探すなどが一般的な対処方法となる。
一方で、発達障害の特性を持っていても日常生活に大きな支障が出ずに進学・就職をして、自分も周囲も発達障害があることに気づかず、何らかのきっかけで判明するという「グレーゾーン」のケースは、人口の1割程度ともいわれている。
大人の発達障害が原因でメンタルヘルス不調になる人は、いわゆる「高学歴で一流企業に勤めている」など、勉強や仕事ができるタイプも多いという。就職後もしばらくは問題なく働き、任された仕事もこなすため、すぐには職場での問題が起きづらいという。
しかし、なかには学生時代から発達障害の特性を感じさせるエピソードを持つ人もいるという。
「大人になってから発達障害が判明した人すべてがそうというわけではありませんが、患者さんの話で比較的よく聞くのが、大学の『卒論』でつまずいたという経験です。
要は、答えややるべきことが決まっている課題ならば問題なくできる。ですが、自分で自由にテーマを選んで研究・調査し、解決するという作業になったとたん、どう進めていっていいかわからなくなってしまうそうなんです。
発達障害を持つ人たちは、深く豊富な専門的知識がある一方で、マネージメントやクリエーション、ソリューションなどコミュニケーション能力やコーディネートする力、臨機応変さや想像力(創造力)を必要とする作業が苦手という特徴があります」
ADHDには苦痛、ASDには快適な「リモートワーク」
発達障害には主に、コミュニケーションが苦手で独特のこだわりがあるASD(自閉症スペクトラム障害)、多動性や不注意傾向が強いADHD(注意欠如多動性障害)、読み書きや計算に困難を抱えるLD(学習障害)がある。発達障害の診断を受けた人のなかには、これら複数の特徴が重なっているケースも多いそうだ。
新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う働き方の変革もあり、2020年の春以降、働き方のひとつとしてリモートワークが定着してきた。このリモートワークも、発達障害の特性によって感じ方が異なるという。
「『ステイホーム』を余儀なくされたり、職場でのリモートワークが実施されたりしたことをきっかけに、メンタル面に変化が現れたという患者さんは多くいらっしゃいましたね。
リモートワークや自宅にいる時間が増えたことで『うつっぽさ』を感じるようになった人の一定数には、『ADHD傾向』があると感じました。
ADHDの場合、人とのコミュニケーションはあまり問題なくできるのですが、ある程度『自由』があることでメンタルを保っている人が多い。そういう人たちはむしろ、家から出ることなく、ひとりでじっと座って仕事をしていることが苦手なのです。
一方、ASD傾向がある人は『リモートワークになって精神的に楽になった』という人が多いですね。オフィスには大勢の人がいるので緊張しやすかったり、聴覚過敏のせいで鳴り止まない電話の音で仕事に集中できなくなったり、昼食も職場の人と一緒に食べたりすることが多いので、ASD傾向のある人にはそういった空間そのものや、雑談に応じることが苦になりがち。
自宅ならば自分ひとりのペースを守れるので、働きやすさを感じるのかもしれません。主なコミュニケーションがメールなど文字を介して行われる点も、視覚優位なASD傾向の強い人たちにとっては有利ともいえそうです」