『Woman』で描く“母と子”
母が母であるために必要なこととは、何なのか? 簡単に答えが見つからないであろう問いに、また違った角度で光を当てたのが、2013年に放送された『Woman』だ。
この作品が民放連続ドラマ初主演となった満島ひかり。彼女が『Woman』で演じたのは、2人の子どもを育てるシングルマザー・小春。夫・信(小栗旬)は、とある事故で亡くなってしまい、後には望海(鈴木梨央)と陸(髙橋來)が残された。
『Mother』では“母性”に焦点が当てられたのと比較すると、このドラマは母と子”の関係を中心に描かれている。
シングルマザーとして、なんとか自分1人の手で生活を守ろうとする小春。しかし、小さな子どもを抱えながら仕事を掛け持つのは簡単なことではない。長年、関係を絶っていた実母・植杉紗千(田中裕子)の元を訪れ、心を引き絞る思いで援助を申し入れる時点から、物語は大きく動き出す。
小春と紗千は、とある誤解から生まれた確執により長らく会うことさえ避けていた。紗千は再婚し、新しい家族とともに幸せな暮らしを築いている。実子ではない栞(二階堂ふみ)に愛情を注ぎ、実子である小春に冷たくする様は、『Mother』で田中裕子が演じた望月葉菜の行動とは対照的である。
『Mother』を始め、『Woman』『anone』『初恋の悪魔』にも出演する田中裕子の存在感にも注目したい。彼女がそれぞれの作品で演じている役柄を比較すれば、自ずと坂元裕二脚本における“人間愛”とは何たるかが、浮き彫りになりそうな気さえする。
また、『Woman』の小春と『Mother』の仁美は、似たような境遇であるにも関わらず真逆の母親だ。夫に先立たれ、自身が病気になっても“強い母”で在ろうとした小春とは違い、仁美は貧困に耐えきれなかった。
落とし穴に落ちた者と、落ちなかった者。たとえ同じような環境であっても、行く道が似通うとは限らない。坂元裕二脚本に宿る“現実的な冷たさ”を感じる一端である。