日本のモノづくりについて思うこと
経営が苦しいなかでも、しっかりと戦略を描き、着実に挑戦しつ続けたマルニ木工は、こうして大きなチャンスを掴み取った。そんな経験をした山中社長に、日本のモノづくりについて尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「当然私が見聞きしてきたことは限られていますが、日本が世界と比べて技術的に劣っている訳ではないと感じています。でも、そもそも多くのメーカーが本気で海外にアプローチしていない。単純に“知られていない”のです。これは日本のマーケットが少し特殊ということも原因でしょうね」
おもむろに椅子から立ち上がり、山中社長はこう続けた。
「ここを見てください。実は左右のアームで、木目がなるべく線対象になるようにしているのがわかりますか? 椅子の裏の、きっと誰も見ないであろうところも、滑らかに仕上げています。海外のメーカーでこういう作り方をするところはほとんど見かけません。海外で評価される“日本人らしいモノづくり”というのは、こういうところなんじゃないかなと僕は思っています。決して、和紙を使ってみたとか、着物の柄を真似たとか、そういう表面的な部分ではないはずです。いまやHIROSHIMAのコピー商品も山ほど出てきています。でも、こうした本質的な部分は真似されることがありません」
もちろん、創業から「工芸の工業化」を掲げてきた同社において、大部分の工程は機械化・量産化が進んでいる。しかし、こうした細部にこだわれるのは、木工家具の老舗として培ってきた加工のノウハウを持っているからだ。
例えば、デザイナーが書き上げるデザインからプロトタイプを作るときに、立体の曲線を描きだすのは職人の勘に頼る部分である。また、ソフトウェアプログラミングをどうこだわるかによって量産化の効率も変わってくる。
「木工家具については、いまや工業化されていることは当たり前だと思います。多くの会社が機械を導入して量産体制を築いていることでしょう。この部分についても、重要なのは、特別な機械を使ってるかどうかではありません。効率化するためのプログラミングのノウハウがあるかどうか、そして作った製品をグローバルでブランディングできるかどうか、そういったところが重要だと思います」
こうして話を聞いてみると、マルニ木工製のチェアが木製の椅子であっても、決して“単なる木の椅子”ではないことがよくわかる。老舗としての技術・ノウハウを持ちながら、デザインやブランディングの価値を理解し、“良き脇役”に徹する。こうした姿勢が参考になる企業は、きっと少なくないことだろう。
インタビューの最後に、山中社長はこんな話もしてくれた。
「実は、古くなってボロボロになったマルニ木工の家具を修理するようなサービスもやっています。30年~40年使っていただいた家具も、直せばまた20年~30年使えますから、新品を買うより安いです。こちらは職人の手作業になるので、機械化ができなくて大変なんですけれど、お客さまにはすごく喜んでもらえるんですよ」
嗚呼、いつかこんな家具を揃えてみたいものだ––––––。結局、取材後にそう思わされたところにこそ、マルニ木工の躍進の秘訣が詰まっていそうな気がした。
文/井上晃 写真/山田秀隆