心に沁みた井村雅代コーチの言葉
――スポーツを伝えるときに大事にされていたことを教えてください。
主役は選手だということです。
選手のことを理解して、その選手の気持ちを代弁する――。
4年間、ずっと、それが私の仕事だと思ってやってきました。
――では、スポーツを伝える楽しさは?
表に出てこない裏側のストーリーを知ることができる立場にいたり、その選手の人柄に触れることができたり…そういう心に触れることができた一瞬一瞬に、やりがいを感じていました。
――選手と同じ気持ちになれる…ということですか?
少し違いますね。
私は、これまで広く、浅く生きてきた人間で。何にでも興味はあるけど、ひとつのことに対して、深く突き詰めたことがない。ずっとそうやって生きてきて、仕事もそういう仕事を選んで。でもそれが、どこかコンプレックスだったんです。
人間として、浅いのかなぁという。
世界で戦うトップアスリートの話を伺っていると、「あぁ、そうか。ひとつのことに全てを賭けて追い続けるというのはこういうことなんだ」と思う瞬間があって。もちろん、その選手のところまでたどり着くことは出来ないし、私に見える景色は、きっとカケラのようなものなのですが、でもそのカケラが、すごく輝いていて。
それに触れられたことが、私にとっては、ものすごくプラスでした。
――順位はつけられないと思いますが、パッと思い浮かぶ、印象深い言葉をあげてくださいとお願いしたら…。
アスリートの方々の言葉は、ひとつ、ひとつ、どの言葉にも重さと深さがあって、とてもひとつには絞れないんですけど…自分の心に沁みたのは、アーティスティックスイミング・井村雅代ヘッドコーチの言葉です。
――“鬼コーチ”と呼ばれる、井村コーチ?
お話を聞いている中で、どうして井村コーチは、選手に対してそんなに厳しいのかという話になって。そのときに、井村コーチがおっしゃったのが、“一生、頑張れと言っているわけじゃない。アスリートには、今、この時、この瞬間だけは頑張らなきゃいけないという時がある。私はそれを思って選手を指導しているんです”というお話で。その言葉がすごく私の心に沁みました。
――何か思うところがあった?
アナウンサーも一緒だと思ったんです。
仕事をしている以上、いつもベストを尽くさなきゃいけない。それこそ必死に、どんなに大変でも、死にもの狂いで頑張らなきゃいけない時期というのがアナウンサーにもあると思うんです。
私自身に置き換えて考えたとき、私にとってはそれが20代後半から、30代にかけてなのではないかと思ったんです。
井村コーチのお話を伺っている間に、アスリートのみなさんがメダルに向かって頑張る期間と、自分がアナウンサーとして踏ん張らなきゃいけない期間というのが、どんどん重なっていって…私自身にとっても、忘れられない、心沁みるインタビューになりました。
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取材・文/工藤晋 撮影/猪原悠