反対側に見える景色
――東京と北京、2度のオリンピックを経験して、強く印象に残っていることを教えてください。
立場が違えば、見える景色も違うということです。
――それって…どういう?
追う者と、追われる者。メダルを取って当然と言われる選手に、入賞を目指す選手…。目の前に広がっている景色は同じなのに、立場が変われば世界も違うし、ひとりひとり、見えている景色はそれぞれで違うんです。
開催そのものに逆風が吹いていた東京では、さらに強く、それを感じました。
――コロナ禍、無観客で開催された東京五輪は、それでも、選手の声を伝えなければいけない宮司アナにとっても、つらい五輪でした。
開催そのものに反対だと言われる方の気持ちもわかるし、それでも、そこに希望の光を求めてやって来た選手がいて…。正直、伝え手としても葛藤がありました。
そんな中、あるとき、ふっと気づいたんです。
五輪開催に反対する側の立場に立つのと、それでも、そこに光を求めてやって来る選手の側に立つのとでは、見える景色がまるで違うんです。見る位置を変えることで、真っ黒に塗りつぶされた世界にもなるし、光あふれる世界にもなる。これって生きていく上では結構、大事なことで。
パッと見て、自分的に違うなと思うことがあっても、数瞬そこに立ち止まることができるようになったんです。
――ちょっと待てよ、と。
はい。
今見えている景色の裏側には、また別の景色があって、それをいいと思っている人もいるんだよなぁと。理解できないまでも、そこに見える景色をイメージする…そう思えるようになったことは、私にとって、とても大事なことでした。
――4月から、週2回(月、火)『FNN Live News days』の報道キャスターを担当されていますが、そういう見方が、報道でも活かされている?
報道に来てまだ3ヵ月ほどなので、実感があるかと言われると、ちょっと自信はないのですが、活かされているというか…活きていたらいいなぁと思います。
今、担当しているお昼のニュースは、書かれていることを間違いなく、そのままストレートに伝えることが大切なのですが私は、個人的なモットーとして、反対側に見える景色を意識して読んでいるので、見てくださっている方、聞いてくださっている方に、少しでも伝わっていたら嬉しいなぁとは思います。