正統なアイヌ文化と誤解されてしまった描写も…
他にもアイヌ語研究の始祖と言われる金田一京助氏の本も描き下ろしの絵に入れています。千葉大学名誉教授の中川裕先生いわく、「少なくとも、まともなアイヌ語研究者の中で金田一氏の功績を否定する人はいません」とのことで、それは知っておいてほしいと思います。
砂沢クラさんの著書の中でも金田一氏との交流は描かれており、アイヌの方と涙を流して別れを惜しむ人情味のある人柄も記録されているんですよ。
僕は、取材には出来るだけ足を運び、自分の目で確認するようにしています。
また、古い資料を読み漁っているとインターネットで検索できることなんて世界のごく僅かなことだとわかります。アイヌに限らず、マタギやニヴフ・ウイルタ、樺太に関すること、明治時代の北海道のこと。
これらの資料に書いてある情報は、ほとんどネットにアップされていないのが事実です。
連載中にアイヌのネタを描くと、時折、中川先生や有識者の方から、「これは何を参考にされましたか」とツッコミをいただいたものです。「ネットに書いてあった」などとは、恥ずかしくて言えませんから、この本の何ページを元に描きました、というやり取りをしました。
――たしか、チタタㇷ゚は叩くときに「チタタㇷ゚」とは言わないと中川先生からツッコミがあったとか…?
はい。実はあれは、「キャラ付け」と「ギャグ」のつもりでした。アシㇼパさんの家の独自ルールですね。実際に掲載された当時は監修の先生方やアイヌの方など、誰からもツッコまれていません。きっと皆さんにも「キャラ付け」や「ギャグ」だとわかっていただいていたからだと思います。
数年前にも、媒体さんの名前を失念してしまったのですが、新聞か雑誌のインタビューで「アシㇼパさんの家のルールだ」とお答えしているのですが、ちょっと予想以上に、キャッチー過ぎて、これが正統なアイヌ文化であると誤解され始めているらしいのです。
それで言いますと「ヒンナヒンナ」も初登場以降、作中で何度か「感謝する言葉」と紹介しています。それ以外にも作中で何度か明言しているのですが、やはりキャッチーなのか、「美味しい」という意味だという誤解が散見されているようです。
また、気付いている方も多いかと思いますが、実は、杉元はアイヌ語に馴染みのない和人なので「チタタㇷ゚」と言えないんですね。「チタタプ」とあえて描いています。
「ヒンナヒンナ」に対しても、杉元はフランクに使うようにあえて描いています。その方が、キャラ付けとして忠実だと思ったからです。そういった描写のこだわりも誤解を招いた遠因かもしれません。
せっかくツッコミいただけたので、このインタビューでも明言させていただきますね。
実写化の際は、そう思われないようにしてもらいたいとも伝えています。僕はアイヌ文化として紹介するものは、資料に載っていないことは描かないというスタンスでしたので。