野性的なバスクステーキ
トレーニングを積む小屋の周囲は、一家が経営する牧場だった。まさに、生活と競技が一体になっていた。近くには彼らがオーナーの立派なレストラン施設もあった。
キッチンに招待されると、男性の料理人が大きな骨付き肉を前に、はつらつと腕を振るっていた。レストランの名物は、チュレトンだという。チュレタがステーキの意なので、チュレトンはでっかいステーキが直訳になるか。バスクステーキとも言われる。
牛肉の骨付きリブロース、熟成させた塊に塩を振りかけ、炭火で30分ほど豪快に丁寧に焼く。炭火自体も地元で作った木材だからか相性が良く、外はカリっと香ばしく、中はジュワっと肉汁が溢れる。
あとは肉食獣になった気分で、ナイフとフォークを使って激しく肉をほおばる。赤い血が滴るミディアムレアがお勧めで、まるで生命を託されたような気分になり、身体中に力が漲るのを感じるのだ。
まさにバスクを感じさせる野性的な料理で、イセタ一家のレストランでも一番の人気メニューだ。
バスク人は大柄でエネルギッシュである。ここ一番では力を振り絞れる者が尊ばれる。しかし強い男は優しく穏やかであるべきで、力なきものを認めないが、力ばかりを誇る男も認めない。
「僕らは肉の恵みに感謝している」
ナイフを手にしたレストランの料理人は、そう言って胸を張った。バスク人の血肉を作るチュレトンには、剛毅な彼ららしさが溢れていた。生命の気骨。その味わいは深かった。
久保がレアル・ソシエダで活躍を遂げるには、まずはチュレトンを食べることから始めるべきかもしれない。
取材・文/小宮良之