バスクの源流は怪力自慢にあり

コロナ禍の少し前、筆者はバスクの港町の一つ、サラウスから山奥深くに入った小屋を訪ねた。

「あそこは怪力たちの住処。彼らこそ、バスクの鑑で源流を知ることができる」

との面白そうな話を聞いたからだ。

その日、空は晴れ渡って地上に近かった。放牧された羊や牛たちが悠然と草を食んでいた。獣の鳴き声が響いてのどかだった。

山の中腹、その小屋は立っていて、一室は饐えた匂いがした。石持ち上げ競技で、三代にわたって続くイセタ一家の住処だという。室内には様々な重量のストーンが整然と積まれ、一家の選手ポスターも貼ってあった。

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石持ち上げとは、基本的に対戦形式で行われる競技である。単純に重さを競う場合、300㎏以上の石を持ち上げる。また、100㎏以上の違った形の石で、持ち上げ方を変えながら、回数などを競う。男性的なスポーツに思えるが、女性部門のチャンピオンもいる。

その日、60代には見えない祖父は鍛え上げた巨体で、必死に練習する孫を見つめ、大きな声で励ましていた。

「オソンド!」

バスク語で「いいぞ」という意味である。二人は掛け声以外、余計なことは話さず、黙々と石を持ち上げた。軽々と担ぐが、なんと数十キロの石である。

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途中からは祖父の息子で、少年の父がトレーニングに加わった。現役のチャンピオンだけに、二人以上の迫力があり、中世の戦士のようだった。腕や首や胸に筋力が隆起。上半身だけでなく、下半身も太い。話を聞くと、一瞬のパワーだけでなく持久力も必要で、何キロも山を駆けてトレーニングを積んでいるのだという。

「日本では怪力男と紹介されたよ」

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イセタ一家の祖父はそう明かした。世界的に話題になって1990年代には香川県のお祭りに興行で参加したという。
「石持ち上げという競技、大人の選手は1分間で100キロ以上の石を20回は上げるから、『すごい力持ちですね』と言われたよ。うれしいんだが、本当は少し違う。

もちろん力を鍛えているが、力だけでは勝てない。9歳の孫も片手で30キロの石を連続で持ち上げられる。相当な力持ちの大人も、片手では上げられない。持ち上げるにはテクニックが重要なんだ」

石持ち上げの大会賞金は2000ユーロ程度(約26万円)。世界最高のサッカー選手、リオネル・メッシは年俸60億円以上だから、世界的プロスポーツと比較すれば日給にも及ばない。しかし賭けの対象になっているだけに、勝つと選手への配分も大きく、その収入もあるという。