「我が警察人生に悔いあり」未解決事件題材の映画に主演した元刑事の思い_2

拡散した理不尽な「噂」を消したい

定年退職が近づいた頃、街の人たちの間に、誤った犯人の噂が残っていることを知った虎男さんは葛藤した。

「そんな噂を立てられて、納得できる? 近しい人を誰かに殺されたのに、みんなが犯人扱いで自分を見ている状況を。この事件に関わった刑事として、このまま放っておいていいのか。でも、もし真相をつまびらかにすれば、警察のミスも明らかになって、42年間飯を食わせてもらった組織を裏切ることになる……。悩んだ末に腹を括って、退職後に『千穂ちゃん、ごめん!』という本を書いたんです」

2011年に電子書籍として発表された『千穂ちゃん、ごめん!』を読んでコンタクトを取ってきたのが、CMやミュージックビデオ制作で活躍していた村山和也監督。村山監督は金沢市出身で、小学生の頃によく野球をしていた場所で犯行が起こったという。

「村山監督も『噂』を信じていたけど、私の本を読むと、どうも違うみたいだと。『映画を作りたいから、ぜひ話を聞かせてほしい』と連絡が来て、3年くらい前に会ったんです。そうしたら、いきなりビデオカメラで撮り始めて。3時間くらい話したら、(村山監督が)『今撮った映像を、映画のエンドロールに流したい』と。まあ、それくらいならいいでしょうと思ったんです」

時を経て再び連絡があり、「ロケハンに付き合ってほしい」と言われたという。

「たやすいことやと思って、自分の車を出して、犯行現場などを案内したんです。そして監督やカメラマンの話を聞いていると、どうも私が主演するということで話が進んでいる。しかも役として住む家まで用意してあるらしい(笑)。『映画に出演してほしい』という話も聞いた覚えがないのに……。ただ、そのとき考えたんです。私には『噂を消したい』という強い思いがあるし、今断ったら、監督に迷惑がかかるだろうと。それに、映画に出るなんて、普通、求めてもできる機会はない。『やってみるか』と黙って心に決めました」