〝練馬の宝〟を守るための決断

――小泉牧場をたたもうと思われた?

そうです。僕はずっと「どうやって牛さんに良いお乳を出してもらうか」しか考えてこなくて、薄々「ここ数年、酪農業界は不景気だぞ」と気づきながらも、目を背けてきたんです。でも、考える時間ができたことで、現実を直視せざるを得なくなった。練馬区で牧場を続けていくことの限界を見ちゃったんです。ちょうど50歳。思い切って別の仕事に就くギリギリの年齢かな、と。

――ご家族はどんな反応でしたか?

高校生の長男と中学生の長女は「仕方がないよね」と。でも次男だけが「やめないでほしい」って言うんですよ。「小泉牧場は〝練馬の宝〟って言われるくらい、みんなに愛されているんだから、やろうよ。やりかたを考えようよ」って。

「続けるために縮小」都内最後の酪農牧場。3代目牧場主の決断_5
手前の茶色い牛はブラウンスミス種。甘みのある乳が特徴だという。

――そして考え抜いて決めたやり方が、規模の縮小。

僕が3代目になったとき、牛さんは30頭だったんです。30年かけて56頭まで増やしたんですが、これを25頭にしよう、と。牛舎を減らしてできた土地にアパートと老人ホームを建て、その収入で酪農を続けようと決心しました。名付けて「小泉牧場幸せになろう計画」です!

――現在は、ちょうど工事の真っ最中ですね。

取り壊しが始まった頃から「やめるんですか!?」と尋ねて来る方が大勢いらっしゃるんです。この間は、小学生のときに体験学習で来たという23歳の女の子が足立区から駆けつけてきて「姉から小泉牧場が無くなるって聞いて、居ても立ってもいられず来ちゃいました。やめないでください!!」って。「いや、やめるんじゃないんだよ、続けたいから小さくするんだよ」って説明しながら嬉しくてね。

――次男さんが言った「練馬の宝」は本当ですね。

ホント、ありがたいことです。「小泉牧場幸せになろう計画」が軌道に乗って、コロナ禍も落ち着いたら、また子どもたちに、体験学習という名の単独ライブを聞いてほしいし、できたら小泉牧場ブランドの乳製品も作りたい。やりたいことがたくさんあって、ワクワクドキドキしています。

「続けるために縮小」都内最後の酪農牧場。3代目牧場主の決断_6
以前は牛舎があったこの土地が、アパートと老人ホームに生まれ変わる。
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小泉牧場
住所:東京都練馬区大泉学園町2-7-16
アクセス:西武池袋線 大泉学園駅北口より徒歩約10分
昭和10年に初代の小泉藤八さんが開業。2代目の興七さん、3代目の勝さんと引き継がれる間に、都区内の牧場は減っていき、平成になるころには23区内最後の牧場となる。現在はホルスタイン24頭、ブラウンスミス1頭を飼育し、1日に500〜550リットルほどを搾乳。東京都酪農業協同組合を通じて製品として出荷されている。酪農教育ファーム認定牧場。

撮影/山口規子 取材・文/工藤菊香