卵の生食文化を世界に拡げる挑戦
日本たまごかけごはん研究所は、卵の生食文化を世界中に拡げることを最大のミッションとしている。しかし、現在卵を生で食べる文化は海外にほとんど存在しておらず、外国人からするとTKGは異様な食文化に見られるそうだ。
その理由は、海外の卵にサルモネラ感染症のリスクがあることが大きい。鶏舎の環境整備や卵の殺菌など、徹底したサルモネラ菌対策を行う日本と比べると、加熱処理が必須となる海外の卵は生食への障壁が高い。
「映画『ロッキー』で、主人公のロッキーがボクシングの試合に向けて過酷なトレーニングをするシーンがあります。その中でジョッキに生卵を5つ割り入れて一気に飲み干す場面がありますが、これを見た時の感想に日本人と海外の人では大きな隔たりがあります」
日本人からすると素早い栄養補給のための行動に思えるが、海外では見方が異なる。
「同じシーンを見た海外の人は『飲んだら死ぬかもしれない、危険な生卵を飲まざるをえないほど追い詰められている』という鬼気迫る印象を受けるそうです。ロッキー役のシルベスター・スタローンには、このシーンの撮影のために保険として出演料と別途でギャラが支払われたと言われています」
米国では、法律で外食での生卵の提供を禁じている州もあり、TKGを世界に広めるために乗り越えなければならない障害は多い。
一方、海外で生食文化の芽吹きを感じる事例も存在する。ハワイには、日本から輸入した技術を利用して生食可能な卵を生産する養鶏所があり、1日に8000個を売り上げる程人気を博しているそうだ。
年月が掛かっても、いつかTKGが世界で受け入れられる未来が作れると上野さんは考えている。
「ニューヨークに初めてお寿司屋さんができたのは1970年代です。それから50年経った現在、寿司は世界中で食べられる存在になりました。生の魚と同じように、生の卵も世界のどこにでもあるのですから、50年あればTKGも世界に広めることができると思っています」
50年後を見据えた日本たまごかけごはん研究所の挑戦はまだまだ始まったばかり。日本の国民食が世界のTKGへと羽ばたく未来に期待したい。
取材・文・撮影/内田陽 画像提供/日本たまごかけごはん研究所
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