「レコードに勝る肴はなし」東京のレコードバーに起きている変化

そもそも、なぜ今、レコードバーが広がりをみせ、注目されているのだろうか。

「『レコードに勝る肴はなし』ということでしょうか(笑)。やっぱりお酒を飲みながら、良い音楽を良い音で聴きたいという人が多いのかなと思います」

そう話すのは、同書の担当編集の河原さんだ。

今回のガイドブックでは165店舗を紹介しているが、制作段階で候補に挙がった店は300軒以上。しかも、取材や編集を進めている最中にも、新しい店が次々とオープンしていたという。

「この数の多さからも、現在の需要と勢いを感じましたね。背景には、レコード人気に加え、日本独自のリスニング文化に惹かれる外国人観光客の増加もあると思います。

また、かつてクラブで朝まで遊んでいた世代が、今度は落ち着いて音楽とお酒を楽しめる空間を作り始めている。そんなクラブ・カルチャーからの流れも感じます」

都内のレコードバー 写真/『東京レコード・バー・ガイド』(DU BOOKS)より
都内のレコードバー 写真/『東京レコード・バー・ガイド』(DU BOOKS)より
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実際、東京都の調査によると、2025年に東京を訪れた外国人旅行者は約2865万人と、前年から15.6%増加している。さらに、若い頃にクラブで音楽を楽しんでいた人たちが、年齢を重ね、今度は自分たちの理想とする音楽空間を作る側に回っているというわけだ。

一方、レコードバーというと、カウンターに酒瓶が並び、壁には大量のレコード。店主がこだわりのオーディオでジャズやロックを流している……そんなイメージを持つ人も多いのではないだろうか。

ところが、実際に取材してみると、そのイメージも変わってきているという。

「本格的な料理を提供するビストロや居酒屋、あるいはコーヒー・スタンドなど、従来のバー以外の業態が増えていることです。それと、シティポップや昭和歌謡、クラシックなど、これまでにないジャンルに特化したお店も登場していました」

お酒を飲むだけではなく、食事やコーヒーを楽しみながらレコードに耳を傾ける。そんな店も増えているのだ。

『東京レコード・バー・ガイド』(DU BOOKS)
『東京レコード・バー・ガイド』(DU BOOKS)

さらに河原さんが驚いたのは、店づくりにかける資金の規模だった。

「飲食業界やアパレル業界などからの参入によって、内装や音響設備にかなりの資金を投じたお店が増えていることですね。かつては音楽好きが自分のレコード・コレクションを生かして始めるような個人店のイメージでしたが、それとは違う流れが生まれているようです」

もちろん、昔ながらの小さな店が姿を消したわけではない。

「店主の個性が色濃く反映された小規模店も強烈な個性を放っています。そうした新旧のお店がひとつの街で混在しているのが、東京のレコードバーの面白さだと思います」

そして、店のスタイルが変わっても、変わらないものがあるという。

「どんなお店にも熱いドラマと歴史があるんですよね。本書を作り進めていく中で、店主の皆さんの語り口から、空間づくりやレコードへの情熱を改めて感じることができました」