「担当者に会う必要があるんです」受付で食い下がった理由

母の10年落ちのホンダのマニュアル車を借りて、フォーマットを整えた履歴書のプリントアウトを携え、まだ新しい機能だったグーグル・マップで住所を確認し、車を走らせた。この頃のコロラドのメインオフィスは何の特徴もないビルで、数十人ほどの社員がひとつのスペースに詰め込まれていた。

「こんにちは。ジェニーといいます」履歴書を振りながら、私は受付の女性に気取った声で話しかけた。「応募書類に問題があったので、担当者の方とお話しする必要があるんです」

「そこに置いていっていいですよ」と彼女は答えた。「直接お会いする決まりにはなっていませんので」

求職活動をしたことがあるならあなたも知っているだろう。会社側は、採用すべき候補者を選ぶためというより、採用すべきでない候補者をはじくために、いくつもの煩雑な手続きや条件を設ける。

週に何万件という履歴書を精査する立場としては、応募を容易にする必要性もない。見込みのない求職者にお引き取りいただく手っ取り早い策として、わざとプロセスを面倒にしている。

「担当者の方に会う必要があるんです」。私は断固として、愛想のよい調子で繰り返した。「履歴書について説明することがありますので」。

1978年にハーバード大学の心理学者エレン・ランガーが主導した行動研究によると要求のあとに理由を述べれば、たとえその理由がたいして意味のない情報だったとしても、要求に対するYESを引き出しやすくなるのだという。

実験では、図書館のコピー機を使う列の後ろから、「コピーを使わせてください。コピーする必要があるものですから」と声をかけると、順番を譲ってもらえる確率が高くなった。コピー機の前にいる人は誰でもコピーする必要があるに決まっているのに、きちんと理由を述べた形になると、人はつい呑んでしまうのだ。