「ラッキー区分」とは
社員たちに話を聞く中で、#1で紹介した黒川さんにも出会った。北関東のふわふわで2023年4月から管理者として働き始めた黒川さんだったが、1カ月もたたずに辞めていた。いったい何があったのか。
「うちのホームでは『ラッキー区分』という言葉が使われていました」。黒川さんは取材にそう話した。何のことなのか。
障害者が福祉サービスを利用する際は、その前に障害の重さを判定する。調査員が自宅などを訪ね、本人や家族と話したり、生活状況やどんな支援が必要かを調べたりして、「障害支援区分」として「1」〜「6」のスコアを付ける。「6」が最重度だ。高齢者の要介護度と似たようなものと考えてもらえればいいだろう。
障害支援区分が重いほど支援の負担がかかるため、事業所に支払われる報酬は高くなる。黒川さんが言う「ラッキー区分」とは、こういうことだ。「それほど手がかからないけど区分が高い入居者は、負担のわりに高い報酬が入ってくるので、『○○さんはラッキー区分だよね』と言われていました」。黒川さんはあきれ顔で話した。
入居者の中には、知的障害と自閉症で激しい行動障害がある男性がいた。現場は「今のスタッフの能力や態勢では受け入れられない」と伝えたが、会社側が受け入れを決定。対応できなかったため強い薬で鎮静させた結果、男性は常にもうろうとした状態になり、よだれを垂らしていた。愛知県の西角さんの長男と似た話だ。
黒川さんら現場スタッフは「いったん精神科病院に入院させたほうがいい」と会社に訴えたが、この男性は障害支援区分が「6」。「『稼ぎ頭』なんだから、入院させたら収入が減ってしまう」と言われたという。
黒川さんはこう話した。「お金のことしか考えていない会社だった。『こんなところでは働けない』と思って、辞めました」
取材・文/市川亨













