そもそも戸籍は何のためにあるのか

高市政権は、「戸籍の根幹」が揺らぐとして「選択的夫婦別姓」ではなく「旧姓の通称使用」を進めようとしている。ここでいう「戸籍の根幹」とは、戸籍が家族の同姓を定めていることを指しているようである。

高市首相の選挙ポスター 写真/Shutterstock
高市首相の選挙ポスター 写真/Shutterstock

しかし戸籍は、もともと家族が同姓であるべきことを示すために作られたのではない。それは、国家の行政手続きに関する一つの制度であり、ある個人を登録して、国家に関わる権利義務を確定するために存在する。つまり国民は、ここに登録されることで、国民として、教育や選挙そして医療などに関わる権利を行使することができるし、納税などの義務を負うことになるのだ。

戸籍制度が作られた明治の初期には納税や徴兵という国民の義務が主張されたので、通常権利の側面には目がいかないが、今は国民としての権利の保証がこれに基づいていることを確認しておくことが重要であろう。

はじめ国家は、もっぱら国民の義務を果たさせるために戸籍を作った。そのとき国民全員に苗字を与え、それを変更することを禁止したのは、権利義務の主体となる個人を特定し、それがゆらがないようにするためであった。「夫婦別姓」の問題を考えるためには、そもそも国民全員が姓(苗字)を名乗るようになったのは、このためであったことを押さえておく必要がある。

その後、一夫一婦制と離婚の禁止というキリスト教の教えに従う西洋諸国から、日本の男女関係における妾や離婚の多さが批判されたため、政府は明治民法を制定する中で「夫婦同姓」を定め、夫婦の一体化を図ろうとした。これにより多くの女性が結婚により姓を変えることになったのである。

個人を特定するという戸籍制度の原則から言えば、こうした女性の結婚による改姓は、苗字(姓)の変更の禁止という原則から外れる措置だったと言える。個人の姓が変わることで、国家による国民の把握は不安定になるからである。

しかし明治民法は、女性が結婚により姓を変えることを、同時に作られた「家制度」と紐づけた。結婚により女性は「家制度」における夫の「家」のメンバーとなり、戸主の支配下に入ることになった。また、女性は主として「家」における仕事を担い、国家との関係で大きな義務を負うこともなかったので、女性が結婚により姓を変えることは戸籍制度の原則からの逸脱であるにもかかわらず、国家としては大した問題だとは考えなかったのであろう。こうして「夫婦同姓」が続いてきた。

しかし現代では、「家」にかかわらず、個人として社会的に活動する女性が増えることによって、結婚時に改姓を迫られる女性たちから、自分が生まれて以降持ち続けた姓を結婚後も使い続けたいという要求が出てきた。そして「選択的夫婦別姓」が議論されるようになったのである。