視野狭窄な弱い人間の強さ
酒井 じつは私は石田さんの小説のファンなんですよ。これまでの作品はほとんど読みました。なので、今日はお会いできてとても嬉しいです。
石田 ええっ、そうなんですか。いやー、そうおっしゃってくださり、とても嬉しいです。私もずっと酒井さんのエッセイを読んできましたが、まさかご本人にお会いできるなんて思っていなかったので緊張しています。
酒井 さっそくですけど、『わたしを庇わないで』すごくおもしろかったです。私は電車での移動中はたいてい本を読んでいるんですが、この小説も電車のなかで読みはじめました。その日、三鷹方面で用事があったので市ケ谷駅から総武線に飛び乗り、本を開いたらついつい夢中になっちゃって。ふと気づくと浅草橋だったんですよ。
石田 逆方面ですね(笑)。
酒井 そうなの(笑)。反対の電車に乗っていることに全然気づかなくて。それくらいおもしろくて、没頭してしまいました。この本には三つの作品が収録されていますけど、それぞれ何を考えて書かれたのかお聞きしていいですか?
石田 最初の「世紀の善人」は、二年くらい前に書いた中編でして、職場の人たちをいじわるな視線で見たまま書いてみたいと思ったのがきっかけですね。
酒井 石田さんが日々会社で働いているなかで感じたことを小説に書いてみようと思った?
石田 そうですね。ただ、こういう小説を書いていると信じてもらえないかもしれませんが、私、職場のおっさんたちが大好きなんですよ(笑)。仕事について本当にいろんなことを知っているので尊敬してるんです。でもやっぱり会社で一緒に働いていると、どうしてこの人はこういう性格なんだって思うこともありまして。作中にも書きましたが、私は職場は自然界であると思っています。ライオンとシマウマの世界みたいなもので、ライオンにシマウマを食べないでくださいとお願いしても無理じゃないですか。
酒井 本能がありますからね。
石田 そうです、弱い者を食べようとする摂理があるというか。だからこの小説ではおっさんたちにいじめられる女性を出して、弱肉強食の感じをわかりやすく表現しました。でも、弱い人間が生きていくためには、逆説的に強くなければならないといつも思っています。
この小説の主人公は、何十人もの会社のおっさんたちがエレベーターの前に律儀に並んでいるのを見て、もしかすると彼らは階段を使うと死ぬんじゃないかと思い込みます。もちろんそんなことはないんですが、タフに生きるためには彼女はそう考えるしかない。あえて視野狭窄になることによって強く生きようとする人間の姿をおもしろく書きたいと思いました。
会社員以外の人物を書くという課題
酒井 「世紀の善人」もそうですが、石田さんの作品って純文学の雑誌に掲載されてるのに、難しい言葉とか実験的な文体が使われることがありませんよね。だから読みやすいんですけど、文章を書くときには何を意識されていますか?
石田 難しい語彙を書かないんじゃなくて書けないんですよね(笑)。いつも何も意識せずにふつうに書いています。純文学では句読点なしとか、改行なしとか、いろいろチャレンジをされる方も多いと思いますが、私にはそもそも知識や教養がないので、そういう書き方ができなくて。でも、いつか読み味が違うものも書いてみたいと思うこともあります。
酒井 ストーリーの作り方で意識されていることはありますか?
石田 主人公が考えすぎないようにしています。観念的な話になるとつまらないかなと。
酒井 主人公のなかに自分は何パーセントくらい入ってますか?
石田 いつもそう聞かれると私、かっこつけて「ゼロです」と答えるんですけど、三〇パーセントくらい入っていると思います。
酒井 それくらい入っているのは、読者としてなんだか嬉しいです(笑)。「世紀の善人」のあとに書いたのが「小人二十面相」ですね。この小説では主人公が子どもなので驚きました。
石田 ボーッとしているといつも主人公が会社員になってしまうので、非・会社員を書こうと思いました。でも全然うまく書けなかった(笑)。もともと鏡に映る自分や写真写りに一喜一憂する人を書きたいと思っていて、自分の顔が嫌いな女性を主人公にしようと考えたんですけど、大の大人でその性格は幼すぎるよなと思って。それで、思い切って子どもにしたんですけど、結果的に今回の本に収録された小説のなかでは彼女がいちばん老成していますね(笑)。
酒井 主人公の望は友だちとディズニーランドに行く約束をしたものの、本当は行きたくないという悩みを抱えています。石田さんは制服ディズニーとかやった世代ですか?
石田 やりました。ディズニーに特別に興味があったわけじゃないんですけど、ディズニー外交をするべく二十回は行っています。私、舞浜駅を通る武蔵野線の沿線に住んでいたので、行きやすかったんですよね。酒井さんは東京のご出身ですよね。ディズニーには行かれませんでしたか?
酒井 ディズニーランドは私が高校生のときにできたんですよ。だから、できたばかりのときは喜んで行きましたけど、そのあとは足が遠のきましたね。大人になってからは数えるほどしか行ってません。ディズニーシーには一度も。若い人には信じられないかもしれないけれど。
石田 いつか酒井さんにはシーに行ったときの話を書いてもらいたいですね(笑)。















