八十五点以上の小説を書き続ける

酒井 あと、エッセイってそんなにたくさん書くものじゃないなとよく思います。
石田 えっ(笑)。酒井さんがそうおっしゃるのはちょっと衝撃ですね。
酒井 書き過ぎると中身がカスカスになるんですよ。骨粗鬆症みたいな感じで。最近、何かを調べてから書くという本が多くなってきているのは、ただ自分の中から「出すだけ」というのが嫌だからなんだと思います。入れてから、出したい。自分のことを書くエッセイは、渾身のものを一生に一冊書く程度でいいんじゃないかな。
石田 なるほど。酒井さんに言われると納得せざるをえませんね。
酒井 石田さんは一日に何枚くらい書きますか?
石田 休みの日は三十枚くらいですね。
酒井 けっこう書きますね。
石田 どんなにゴミのような文章でもいいので、とりあえず一万字を目指して書いています。後で消すことも多いですが(笑)。平日は五枚か六枚くらいです。酒井さんはどれくらい書かれていますか?
酒井 私は出張というか旅が多いので、書かない日はまったく書きません。書くときはどれくらいだろう……数えてないからわからないですね。でも、一日で書ける文字数は、加齢とともに減ってきていると思います。
石田 勝手なイメージで酒井さんは毎日欠かさず書いているのかと思っていました。
酒井 慎重に書くようになったというか。石田さんはご自身の書き方に変化を感じたりしますか?
石田 いつも百点を目指すというより、八十五点以上のものをコンスタントに書こうと思うようになりました。自分がおもしろくないと思ったものでも、編集者さんが気に入る場合があるので。プロ意識が低いかもしれませんが。
酒井 むしろプロ意識が高いですね。
石田 あ、逆にそうですかね(笑)。やればやるほど何がウケるのかさっぱりわからないです。
酒井 でも、石田さんもおっしゃったように、自分ではおもしろくなくても、ほかの人にとってはおもしろいことってよくあるから、点数なんて絶対じゃないんですよね。
石田 ウケるポイントは本当に人それぞれだなとよく思います。

ほんとはみんなそう思ってる

石田 酒井さんはエッセイで人間礼賛をしませんよね。人間の美しさを書いたエッセイは世のなかにたくさんあるけど、酒井さんは人間は誰しも卑しくて、悪意やあさましさを持っていることを隠そうとしていないように感じます。そこも私がすごく好きなところです。
 私も自分の小説は絶対に美談にしたくないと考えています。人間は善ではないと思っていて。
酒井 人間の善の部分を書いた本はすでにたくさんあるから、私が書かなくてもいいかなと思っています。美談の美しさを表現する方法をよく知らないですし。でもこの先はわからない。何度も言っているように、年齢による変化は予想がつかないので、もっと年をとったら人間礼賛しまくっているかもしれません。
 石田さんの小説には美談はないけど、毒もあまりないですよね。辛辣なことを書いているんだけど、気持ちの良い読後感が残る。何か気をつけていることはありますか?
石田 自分ではもっと毒々しく書きたいと思っていますね。以前、ボディビルダーの主人公が太っている人をひたすら貶す『ミスター・チームリーダー』という話を書いたときに、絶対に怒られると思ったんですよ。でも、いろんな人から「明るい悪口ですね」「カラッとしてますね」みたいに言われて。もっとイヤ~~~な気持ちになって欲しかった(笑)。
酒井 たぶん、みんなが思っていることを書いてくれるからじゃないかな。今の時代だから言えないし、書けないだけで、世間の人たちが感じていることは変わってないんですよね。
 私も子どもの頃は酒井は毒舌だって呆れられてたのに、書くようになったらなぜか褒められるようになって、なぜなんだろうと思ったことがあります。言うのと書くのは全然違うことなんだなと大人になってから気づきました。
石田 私は明るい悪口というより、陰湿な悪口を書きたいですね。でも、自分では意地悪く書いたつもりでも、世間的には結局のところ「いい子ちゃん」なのかもしれません。本当にイヤ~~~な陰湿なことは自分には書けないのかもな、と。
酒井 それは石田さんが陰湿な人ではないからですよ。石田さんの小説には本当のことが書いてあるし、その裏には理念があるじゃないですか。「わたしを庇わないで」だったら、「庇う」という行為や当たり障りのない言葉に言い換えることに潜む欺瞞を告発している。そういう話を読者がおもしろがるのは、みんなが心のなかで薄々そう思っているから。世間的には「デブ」を「ふくよか」と言い換えましょうとされているけど、それで何かが解決するわけじゃないとみんな感じているから、石田さんがこういう小説を書いてくれてスカッとするんでしょうね。