客と意思疎通ができず、事務仕事もミスばかり

ひきこもりを脱して大学を卒業した虎井おんさん。「誰かの人生の転機を支えられる仕事がしたい」と不動産関係の会社に就職した。

だが、それまでリアルな人付き合いをあまりしてこなかったこともあり、対人関係でミスが続いた。

「お客さまの気持ちや意図をくみ取るのが難しいし、意思疎通がうまくできなくて。クレームの電話を受けると、すぐお客様と喧嘩になっちゃって、『虎井さんストップ!』って電話から引っぺがされたり。

事務処理も苦手で何回教えてもらっても計算が合わない。不動産賃貸営業の契約書って、数字のミスひとつで法律にひっかかることも多くて、『なんでできないの?』とすごく怒られて。がむしゃらに働いていたら、だんだん苦しくなってしまって……」

写真はイメージです(写真/AdobeStock)
写真はイメージです(写真/AdobeStock)
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帰宅後も頭が働かず、スーパーで立ち尽くしたまま買い物もできない。とうとう出社さえできなくなり、医師の診察を受けると、うつ病と軽度のADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)だと診断された。

「発達障害ですって言われてホッとしました。勉強しても結果が出なくて、社会人になってもミスしてばかりで、こんなに頑張っているのに、なぜって思っていたから……。

親だけでなく、私自身も“普通”に働くことに固執していたけど、その“普通”に適合できなくてツラかったんですね」

虎井おんさん(撮影/集英社オンライン)
虎井おんさん(撮影/集英社オンライン)

上司に診断結果を伝えて電話応対を減らすなど配慮してもらったが、事情を知らない同僚たちからは「何で電話を取らないの?」と言われてしまう。居づらくなり、辞職した。

ダメダメな自分でも肯定してくれた初めての居場所

退職後は、障害者の就労をサポートする就労移行支援事業所に通った。その頃からVTuberとしても活動を始め、うつ病や発達障害の動画を作成した。

大学時代にもやろうとしたことがあるが長続きしなかったという。活動名の「虎井」は「いろいろなことにトライしたい」という思いを込めて付けた。

VTuberとして活動する虎井おんさん
VTuberとして活動する虎井おんさん

半年後に障害者雇用で就職。仕事は事務補助やデータ処理などで、無理なく働けた。だが、ストレスを発散するために暴飲暴食したり、高い機材を衝動買いしてしまい、だんだん家計が回らなくなるように……。

「クレジットカードの支払いが間に合わないとか、職場にまで催促の電話が来るみたいな。しかも、4社ぐらい。かなりヤバかったです」

そして、1年後に休職。そこから半年ほど、また家にひきこもった。

「うつが悪化して、体がしんどくて、もう動けなかったです。すごくいい会社なのに適応できなかったという絶望感があったし、社会から取り残されているという焦燥感もありました。

ただ、大学時代みたいな鬱屈とした、自暴自棄なひきこもりとはちょっと違っていて。せめて、何かネット上に残しておきたいと、ひとりでもがいていましたね」

そんなとき、Xのポストを見かけたのが、「V福祉プロジェクト(V福)」という家から出られない人でもオンラインで参加できる居場所などを運営する団体だ。

VTuberや音楽などエンタメの力を使って福祉の情報を広げていく活動をしている。虎井さんは藁にもすがるような気持ちで参加してみたという。

福祉団体「V福祉プロジェクト」に救われたという虎井おんさん(撮影/集英社オンライン)
福祉団体「V福祉プロジェクト」に救われたという虎井おんさん(撮影/集英社オンライン)

「その居場所がすごく温かくて。ただただ、柔らかく気持ちを受け止めてくれて、初めて安心できたというか。ダメダメで落ち切った自分でもいいんだと肯定してくれるような空気感がすごくありました。

代表のシアンさんは壮絶な人生を歩んでいて、それでも立ち上がってコミュニティを作っていることに、心底驚かされたんですよ。

すごく明るくて、福祉に対する熱い思いを持っているのが、オンライン上でもビッシビシ伝わってきて(笑)。めっちゃいいなって。うわ、ちょっと泣きそうだ」