選択肢が多いほうが売上が減る
推し活とは、好きなアイドルやキャラクターなどを応援するための消費行動ですが、近年では選ばない消費と推し活が結びついた「ガチャ活」という動きが見られるようになりました。
何が出てくるか分からないカプセル玩具、いわゆるガチャガチャは、まさに選ばない消費の象徴的な例です。最近では、このガチャガチャで手に入れたフィギュアやアクリルスタンド、ぬいぐるみなどを集め、自分なりに組み合わせてカスタマイズし、その様子をSNSに投稿する人が増えています。
これは、「こんなのが出てきた」という驚きや楽しさが、さらに進化したものだと考えられるでしょう。
つまり、それぞれ単体ではただのフィギュアやぬいぐるみにすぎませんが、いくつかを組み合わせてみると、「思いがけずこんなにかわいくなった」といった発見や喜びが生まれます。
昨今のガチャ活は、選ばないことで偶然に出会う面白さを味わい、その出会いを自分なりに工夫して楽しむ、そんな選ばない消費の進化形といえるかもしれません。
似たような例を、もう一つ挙げておきましょう。「ブラインドボックス」という、人形やぬいぐるみが入った箱が人気を集めています。
この箱のいちばんの醍醐味は、開けてみるまでどんなグッズが入っているのか分からないところにあります。首都圏には「ブラインドボックス」の専門店もいくつかあり、「ラブブ」のような人気キャラクターを目当てに購入する若い女性が多いそうです。
けれども、お目当てのキャラクターでなくても、カプセル玩具より素材やデザイン性に優れていることから、十分に魅力を感じられるようです。「箱の中身はどんなコかな?」というワクワクを味わえるのが何よりの楽しみで、着せ替えができるものもあるため、「ガチャ活」のハイエンド版ともいえそうです。
なぜ、こうしたトレンドが生まれているのでしょうか。それは、私たちは「選ばないこと」を有効な選択肢だと感じているからだと思います。
2000年、アメリカ・コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が「選択のオーバーロード仮説」を発表しました。これは、スーパーマーケットでジャムを6種類置いた売り場と24種類置いた売り場とで、どちらが多くのジャムが売れたか、という調査を行った結果に基づいています。
結果は予想される通り、6種類の売り場の方が、売上が多かったのです。
選択肢が多いと私たちは悩みが増え、ついには商品を手に取らない、という行動に至ることが証明されています。
このように、私たちは無意識のうちに「選ぶのは面倒だ」「選択肢は少ない方が楽だ」と感じています。消費において「選択肢は多い方が良い」という考え方は、失われた30年の中で少しずつ陳腐化していったのではないでしょうか。
こうした私たちの感覚は、実はプロフェッショナルの世界にも通じるところがあります。たとえば、プロ野球のピッチャーです。現代の野球では、膨大なデータ分析によって、どの場面で何を投げるべきかという「最適解」が、ある程度あらかじめ導き出されています。
しかし、ピッチャーがマウンド上でその膨大なデータをいちいち計算しているわけではありません。むしろ、データに基づいたキャッチャーのサインという「仕組み」に判断をゆだね、あえて自分では「選ばない」。そうすることで迷いを断ち切り、投げることそのものに集中して、最高の一球を投じることができるのです。
プロフェッショナルでさえ、最後はあえて「自分で選ぶこと」を手放し、信頼できるものに身をゆだねているのなら、私たちも無意識の声に、もう少し耳を傾けてもいいのかもしれません。
自分で選ばなければ、主体的に考えなければと、どこか焦る気持ちに駆られることなく、ときには「なんとなく」を認め、自分で選ばずに直感、無意識にゆだねてみる。そんな柔らかい姿勢が、悩みや手間をそっと減らしてくれるはずです。













