選ばない消費で広がる世界
一つ付け加えると、紙の雑誌が電子版でも発行されるようになって以降、さまざまな雑誌を定額で読めるサブスクサービスを利用する人が増えています。これは出版社ではなく、楽天やAmazonなどのプラットフォーム企業が運営することも多く、ニュース誌からファッション誌、経済誌まで幅広いジャンルがそろっています。
雑誌といえば、これまで紙が当たり前でしたが、若い世代にとってはむしろ、デジタルで読む方が自然なのかもしれません。雑誌のサブスクは定額で読み放題になっているため、特にこれと決めずにとりあえず開いてみる、という読み方ができます。一冊ずつ選んで買う必要がないぶん、普段なら手に取らないような雑誌との思いがけない出会いも生まれやすい。これもまた、選ばない消費の一形態といえるでしょう。
このようにサブスクをあらためて眺めてみると、選ばない消費の需要を確かに引き受けているサービスだと感じます。実際、サブスクの市場規模は拡大傾向にあり、すでに2018年には一兆円超という推計結果があります(図表11)。
一般的に市場規模が100億円を超えると、生産・流通・販売・消費という流れが確立し、ジャンルとして産業界で一定の地位を持つと言われています。その意味では、サブスクと表裏一体にある「選ばない消費」も、まだ意識的に語られる機会は少ないものの、すでに消費行動の大きな軸として社会に根づいているのではないでしょうか。
選ばない消費は、他者に選ぶことをゆだねる消費のかたちです。人にやってもらうことで手間を省くというだけではなく、それが生活をなめらかにし、気持ちを軽くするための一つの技法にもなっているように思います。
この「任せる消費」をもう少し広げて考えると、代行サービスが思い浮かびます。
今や、料理代行や掃除代行、洗濯代行、犬の散歩代行といった家のことから、退職代行、幹事代行のような仕事のこと、さらには結婚式出席代行や話し相手代行まで、その対象は多岐にわたります。これらはもちろん、自分でやるよりプロに任せた方がうまくいくという合理性もありますが、根底には、できることなら面倒な選択や手間を人に任せたいという需要があるのでしょう。
人に任せる、という観点をさらに広げると、コンサルティングも一つの例に挙げられます。
日本の企業は長らく自前主義が強く、すべてを社内で完結させようとする傾向がありましたが、2000年代後半からはITシステムの運用を中心に、コンサルタントに頼る動きが当たり前になりました。
経営戦略の立案では、人員削減やコストカットを主題にするコンサルティングが一時期盛んになり、批判も集めました。何でもコンサルに頼るのは良くないという見方もありますが、一方で、自分たちだけでは出せない成果を共に考え、引き出すパートナーとして、コンサルは今や人気の高い選択肢となっています。
自前以上の力を生むために、あえて任せる。そうした選択が、組織にも個人にも広がっています。
自分ですべてをやらずに、誰かに任せる。その中には、何もかも選ばないでいいという態度も含まれているはずです。この章は「主体性」について考えるところから始まりましたが、選ばない消費は、一面では、自我を少し横に置くという行為なのかもしれません。
自分の判断やこだわりにとらわれすぎると、見える景色は狭くなることがあります。だからこそ、他者にゆだねてみることが、新しい視野を開くきっかけになるのだと思います。
「選ばない消費」の良さは、単なる「便利さ」を超えて、自分の世界を広げ、物事の見え方をそっと変えてくれるところにあるのではないでしょうか。
文/久我尚子
註
*1 株式会社スポーツITソリューション プレスリリース「eスポーツ・サッカー大会『FCコミュニティシリーズ』が、家電のサブスク・レンタルサービスを手がける『レンティオ株式会社』とオフィシャルパートナー契約を締結」(2025年7月3日)。
*2 FASHIONSNAP「大丸松坂屋のファッションサブスク『アナザーアドレス』がリアル進出 来年2月から約4ヶ月限定オープン」(2025年12月17日)。













