極右とフェミニズムの不幸な結婚
極右女性たちは、白人女性性、母性、家庭、教育、安全、子どもの保護といった価値を政治的資源として用いることで、共同体の「境界」を守る主要な政治的アクターとして承認される。しかし、その権力はあくまで、男性中心の極右秩序が許す範囲に限られている。
若い女性はアイデンティティ運動の象徴として、母親は教育や道徳の番人として、女性政治家は国民の母として称揚される。だが、その称揚は彼女たちを解放するものではない。それはむしろ、既存の性別秩序を揺るがさない限りでのみ認められる、条件付きの承認なのである。
したがって、極右女性が得る権力は、断片的で、脆いものだ。彼女たちは他者を傷つける力を持つ一方で、自分たち自身もまた男性中心の秩序に監視され、役割から外れれば排除されうるような、不安定な立場に置かれている。
ここに、極右の「女性化」が抱える根本的な矛盾がある。女性が前面に現れ、女性の権利や安全が語られるようになったとしても、それは必ずしも女性の解放を意味しない。極右における女性の可視化は、フェミニズムの勝利ではなく、フェミニズムの語彙が家父長制的・排外主義的秩序の維持のために取り込まれる過程なのである。
極右は、女性を単に政治から排除するのではない。むしろ、女性を取り込み、声を与え、象徴として掲げることで、自らの運動をより穏健で、近代的で、正当なものに見せようとする。
しかし、その声は、女性が既存の秩序に異議を唱えない限りでしか与えられない。
認められるのは解放ではなく、管理された参加である。
支配する側に近づくことで従属から逃れようとしても、その秩序は女性たちを完全な主体として迎え入れるわけではない。
必要なかぎりで利用し、不要になれば切り捨てるだけである。
女性たちは政治の前景に立つ。
しかし、そこにあるのは真の解放ではない。差別と支配の秩序が、フェミニズムの語彙をまとって生き延びる光景なのである。
文/森野咲
*1 アイデンティタリアンとは、1990年代以降フランスの極右・新右翼圏で形成され、2000年代以降欧州各地に広がった運動である。彼らは「アイデンティティ」の防衛を掲げるが、その実質は白人/ヨーロッパ文明を移民、多文化主義、イスラーム、混血化から守るという思想であり、非ヨーロッパ系住民の排除や「再移民」を正当化する白人ナショナリズムないし白人至上主義的傾向をもつ。
参考文献
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ポリタスTV編、山口智美・斉藤正美著、津田大介解説『宗教右派とフェミニズム』青弓社、2023年。
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森野咲「極右とフェミニズムの不幸な結婚」『ふぇみん』、2025年10月15日号(3432号)より月1回の連載 (2026年6月時点) 。
Léane Alestra, Les vigilantes: Surveillées et surveillantes, ces femmes au cœur de l’extrême droite, JC Lattès, 2025.
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