解散後、一度もライブで演奏されず

ふたりの同窓で東大卒のカネクソ(あだ名)が浅草キッドを営業に呼んでくれた。「俺たちの学校で芸能界に入ったのはコウモったんと小野(水道橋博士の本名)だけだな」「コウモったんに言っといてよ。バンドの世界はお笑いより熾烈だろ。やめとけって」。

そこに「リンダ リンダ」が流れた。「これだよ、コウモったんのバンド」。博士は驚愕した。「俺、このレコード買ってるよ!」

なぜ甲本ヒロトのような、ひとことで言うなら「変人」が生まれたのだろう。僕には「岡山県人信仰」がある。岩井志麻子著『東京のオカヤマ人』の影響を受けすぎたせいだ。先述の人たちの他にも星野仙一、B'z稲葉、オダギリジョー、近年では藤井風。遡れば宮本武蔵、竹久夢二。津山三十人殺しも岡山だ。突拍子もないことをやらかす風土なのだ。

岩井志麻子『東京のオカヤマ人』(講談社文庫)
岩井志麻子『東京のオカヤマ人』(講談社文庫)
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話を戻す。ヒロトとマーシーはブルーハーツの次にTHE HIGH-LOWSとして10年間活動し、ザ・クロマニヨンズで現在に至る。

ブルーハーツの楽曲は一度もライブで再生されたことはない。バンドで成功したミュージシャンは解散後の活動で、「絶対に」と言っていいほど、バンド時代のヒット曲や代表曲をライブで演奏する。盛り上がるし、客も求めている。

しかし「それは過去の道。振り返ることはしない」と、ライブで演らない例外もいる。小山田圭吾と小沢健二。坂本慎太郎。そしてヒロトとマーシーだ。「絶対に再結成はない」とする彼らの強い意思が窺える。

解散後のキャリアが安定し、経済的に恵まれていなければできないことだ。彼らの高い志のせいで、聖なる一回性であるライブで名曲が甦ることはない。ヒロトとマーシーは死んでもブルーハーツを再結成しない。

「若者特有のわけのわからない衝動」はどこへ行ったのか?

52歳のおっさんになった今、若者による犯罪のニュースがあるたび思う。

──彼らはブルーハーツを聴いたことがないんじゃないか?

もちろんブルーハーツ直撃世代にも犯罪者はいる。しかしあの「若者特有のわけのわからない衝動」をパンクミュージックであそこまで明確に具現化したのは後にも先にも彼らしかいない。ブルーハーツは確実に当時の青少年の犯罪を抑止していたと思う。

そして何より寂しいのは、ブルーハーツ以前にもINUやスターリンやじゃがたらといったパンクバンドはいたが、後の世代で誰ひとりブルーハーツが発明した方法論を継承できなかったことだ。はっぴいえんどにはサニーデイ・サービスの曽我部恵一という大天才がいたが、ブルーハーツには後継者が現れなかった。

ヒロトとマーシーにはヒロトとマーシーしかいない。そしてヒロトとマーシーはきょうも前しか向いていない。僕たちはもう二度と美しいドブネズミを見ることはない。

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文/樋口毅宏 写真/Shutterstock

なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか ――100年後、カルチャーの参考資料になる本
樋口毅宏
なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか ――100年後、カルチャーの参考資料になる本
2026/5/28
2,200円(税込)
288ページ
ISBN: 978-4911632024
発売: POST

ブルーハーツ、山下達郎、長渕剛、エレファントカシマシから、北野武、とんねるず、松本人志、村上春樹まで、日本のカルチャーを「サブカルの語り部」樋口毅宏が忖度ぬきで書き尽くした一冊!
小山田圭吾、阿川佐和子、小西康陽との対談も収録。
表紙は江口寿史の描き下ろし!


『さらば雑司ヶ谷』『中野正彦の昭和92年』などの小説ででテロとバイオレンスを描き、
『凡夫 寺島知裕 BUBKAを作った男』ではノンフィクションに挑み、
そして『タモリ論』『さよなら小沢健二』でカルチャーへの造詣の深さを知らしめた
作家・樋口毅宏による最新カルチャー・コラム集。

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