わずか1年の間に4人家族のうち3人を解剖することに

同居する4人家族のうち3時間差で3人を私が解剖することになった極めて特殊な事例もあります。

写真はイメージです
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その一家は夫婦と40代の息子、成人した娘の4人家族でした。しかし、妹が精神疾患を発症したことにより、徐々に家族に迷惑をかけるようになります。たとえば、お金をもたずに外出しては、タクシーで帰宅して代金を兄に払わせる。

そんなふうに一つひとつを取り上げれば深刻とまではいえないものの、いくつもの出来事が積み重なったのでしょう。

とうとう怒りが沸点に達した兄は、妹をこらしめようと――殺すつもりはなかった、と兄はのちに証言していますが――寝ている妹の顔面に片手鍋で沸かした熱湯をかけてしまったのです。

しかし、この一家が異様だったのはここからです。

成人した4人が同居しているのですから、父や母、もしくは自分の行動を後悔した兄、誰かしらが熱湯をかけられて顔面が熱傷でただれた妹を病院に連れて行くのが普通でしょう。しかし、誰1人妹を助けようとせず、そのまま放置してしまった。

数日後、妹はそのまま死亡します。他殺の疑いがあるとのことで、司法解剖に回ってきた彼女を解剖したとき、焼けただれた顔の周辺にはウジが這っていました。

さらに死体発見時の状況を聞くと、驚くべきことに兄が熱湯をかけたとき、妹のとなりには母親が寝ていたことがわかりました。後日、警察に事情を聞かれた母親は「自分の首にもお湯がかかった」と証言し、実際に火傷の跡もありました。

では、なぜ母親はとなりに寝ていた娘を放置したのか。

それは母親が認知症を患っていたからでしょう。では1つ屋根の下にいた父親はなぜなにも行動しなかったのか、その理由は明らかにされていません。妹の解剖の結果、傷害致死の疑いがあることが明らかになり、兄は逮捕され服役します。

それから1年も経たない冬に、2人暮らしになった老夫婦が今度は揃って死体となって発見されました。

解剖の結果、夫は病死、妻は凍死でした。

残された夫婦は、認知症の妻を夫が介護しながら暮らしていたそうです。介護者が先に亡くなった場合、認知症患者はなすすべもなくなってしまうことがあります。

家族で唯一、服役中に生き残った兄は、その後の人生をどう生きたのかまでは法医解剖医である私にはわかりません。しかし、過去に担当した解剖の中でも、際立って特殊な事例だったため深く印象に残っています。