自分を偽装することで、最終的に本物になっていく

──書籍では、永六輔さんや立川談志さんをはじめ、テレビ朝日のアナウンサー時代にさまざまな世界にいる超一流の人たちと対峙してきた様子が描かれています。ひるまずに切り込むためのテクニックを教えてください。

僕なんか及ばない天才がそれぞれの世界にたくさんいるわけです。僕の人生を紀元前と紀元後に分けるとすると、紀元前は大学卒業までで、紀元後はテレビ朝日入社後だと思っています。

紀元前は、自分の欲を満たすものなんて何もないわけです。勉強もしっかりやってこなかったし、スポーツも奮わない、異性からモテない。けれども幸運にもアナウンサーになることができて、どうやらしゃべりだけは、わずかに才能の芽があるらしい。しゃかりきになってしゃべりを磨き続けることで、ある種の“証明書”を手にしたんです。

そうした証明書のおかげで、隔絶した才能を持った人たちに、一対一で話を聞くことができるようになった感覚がある。

それでも本音では、負い目と引け目とコンプレックスが常にありました。何度も卑屈になります。でも、しゃべりにおいては、僕の土俵なんだと自分を奮い立たせて仕事をするんです。

その時々の内閣総理大臣に切り込まないといけないこともある。通常なら恐縮してしまいますよね。けれどもそんなとき、自分のなかの「なにくそ」という業を見つめながら自分を偽装することで、最終的に本物になっていくんだと思います。

いまだにコンプレックスが活動の根源だという
いまだにコンプレックスが活動の根源だという

──そうした緊張感のある現場で活躍するために、オンオフの緩急をどのように意識していましたか。特に、古舘さんと言えば立て板に水のようにしゃべり続けるイメージを持つ人も多いと思います。

しゃべりのなかにも緩急はありますよね。言葉を連ねることに真剣になりすぎると、今度は間を取れない。しゃべりと間は不思議で、実は間こそ主役だったりしますから。だから無理に黙る努力をしてみたりします。

私生活においては、たとえばお寺の中庭をぼーっと眺めていることによって精神を緩ませます。副交感神経が優位になる時間を作ることが、生き延びる本能なのかなと思ったりもしますね。今はストレス社会、情報化社会で、交感神経優位の時代になったなとは思います。

昔はおじいさんおばあさんがベンチに半日とか平気で座ってましたけど、今都会でそんなことをしたら、下手したら通報されてしまいますよ(笑)。カフェも回転率重視で、立ち止まることを許してくれない。都会は副交感神経優位をなかなか許してくれないなと感じます。